傷弾の鳥【出水公平】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:27,635 hit

4話ページ5

出水side

「つい来ちまったなー。」

『そうだね。』

俺達が来たのは、ついこの間まで勉強したり、友達と戯れていた中学校《だった》場所だ。

校門にはKEEP OUT と書かれた黄色いテープが乱雑に張られ、中は崩壊した建物の瓦礫が散らばっていた。

『こうやって見ると、ほんとにあった出来事なんだって感じるね。』

「そうだな...。これが現実ってなんかすげーよな。」

今の日常も、昔の俺にとっては非日常でゲームの中に入ったような感覚だったことを今更ながら思い出した。

「って、おい！」

我に帰ってすぐ依田が黄色いテープを跨いでいる光景が映った。

『今しか入れないし、それにこういうのって悪いことしてるつもりでワクワクしない？』

「わかるけど...。」

彼女は惜しげも無く線を超えて、校舎内に入っていった。まるで、何が起きても平気だと言わんばかりの足取りで。

自ずと自分も付いていく形になり、校舎内を歩きまわった。一体なんのために依田は来たんだろうか。

彼女は俺の前を歩きながら、ポツリと呟いた。

『私の親ね、亡くなったらしいの。お父さんもお母さんも白い化け物にやられちゃったんだって。』

「.....そっか。」

やはりあの噂は本当だったらしい。噂から事実に変わった瞬間だった。

『お父さんが近所に住んでた子供が瓦礫に挟まってるのを見て、お母さんに先に逃げるように言ったらしいの。でも、お母さんも逃げずに一緒に助けようとしたんだって』

彼女の平坦な声が階段を登る音と共に響く。

『そしたら白い化け物がやってきて、攻撃を庇ったお父さんとお母さんは亡くなった。庇った子供はなんとか一命を取り留めたらしいけどね。』

彼女はドアを開けた。そこは本来ならば入れない屋上の扉だった。

『でもね、あとから聞くとその子供の両親は子供を見捨てて逃げたらしいの。避難所で再会したときにごめんねってたくさん謝ってたけど、本当に謝るべき相手は他にもいるんじゃないかって思う。』

独りでに語る彼女から目を離せなかった。
冷たい朝の風が体温を奪う。

『あの状況だったから、仕方ないことだって分かってる。でもねやっぱり悔しいよ。』

服の裾を手が白くなる程ぎゅっと握っているのが見えた。俺はそれを見てようやく理解した。

やっぱり依田はいつも通りなんかじゃなかった。
そういう風に見えるようにしていただけ。

気づいた時には依田を腕の中に閉じ込めていた。

.