26話 ページ28
Aside
辺りはすっかり暗くなり、面会時間も優に超えていたが、出水は私の病室にいた。
私が眠っていた間、出水が献身的にお見舞いに来ていたことを知っていた看護師さんが少しだけと許してくれたんだとか。
私が寝ている間に風間さんが弟と間違われていたととか、太刀川さんがきな粉を床にばらまいて怒られたとか、他愛ない報告を聞いていた。
風間さんは太刀川さんのお世話をしに太刀川隊の作戦室によく来ていたが、お見舞いに来てくれたことは少し意外だった。退院したらちゃんと礼を言わないと。
「あのさ、A。」
出水は談笑をしていた今までのトーンは少し違う高さで私の名前を呼んだ。
『どうかしたの?』
「さっき記憶処理された女の子のことなんだけど...。」
出水は言いづらそうに頭を掻き、うーんと唸った。
『早く言ってよ。気になるじゃん。』
「あー、そうだよなあ。うん。」
よしっと心を決めたように、私の目を見て言った。
「大規模侵攻のときにお前の両親って子供を庇って亡くなっただろ?」
『!、もしかして...。』
「そう、その時の子供だよ。」
鈍器で頭が殴られた気分だった。その子が私の両親を殺したと言っても過言ではない。
でも、私が今抱いてる感情は怒りじゃなくてーー。
『....守れてよかった。』
「随分とお人好しなんだな。」
『だって、その子がもし死んじゃってたら私の両親の死が水の泡でしょ。それに、私はあの子を恨んでない。』
自分でも驚くほど心中穏やかだった。両親が守ろうとした子供を守れただけで私は嬉しかった。勝手なエゴだけれど、それでもーーー。
私の顔が綻んでいる様子を見て、出水もつられたように笑った。
「記憶処置をされるギリギリまでたくさん話を聞いたよ。なんか忘れちゃうのがもったいねーってくらい。」
『ーーー何か言ってた?』
「自分の親に見捨てられて、もうダメだってときに助けてくれたAの親も、命も顧みずに助けてくれたA自身もカッコよかったって。自分も大きくなったらボーダーに入りたいって言ってた。」
『そっかあ。その子が大きくなる頃にはこの戦いも終わったらいいのにね。』
「そうだなー。あっ、あと大事なこと忘れてた。」
『?』
.
.
「 "助けてくれて、ありがとう" ってさ。」
『ーーーどういたしまして。" 生きててくれてありがとう" 』
.
.
記憶をなくしたあの子にーーー。
.
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作者名:いーす | 作成日時:2019年4月30日 17時