傷弾の鳥【出水公平】 (ページ19)

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17話ページ19

出水side

あいつのことだし、今日は勧誘を気にしすぎて練習に没頭してるんじゃないかと夕方に狙撃手の訓練所を覗けば、案の定ひたすら的を撃っていた。

周りの人が次々に終わり、佐鳥がAに声を掛けているが反応しているようには見えない。

話しかけようと思ったが、悩んでるところに俺が口を出せば “俺の意見” を自分の意見にしてしまうだろうと思って足を止めた。

「とりあえず、終わるまで待つか....。」

ボーダー内の同じような廊下を歩いて、屋上に出れば薄暗くなった空が広がっていた。

そういえば、屋上で本音を聞いたのはもう1年前だなーと思い出した。

どうして助けたのかって言われて、俺は正直分からなかった。でも助けたことに後悔はないし、あいつを守りたいと思ってる気持ちも嘘じゃない。

太刀川隊に入ればきっと、今よりずっと強くなる。
けど、太刀川さんに守ってもらえるようになれば俺はお役御免なわけで....ていうか俺いらないんじゃね....？

いやいや、と消極的な考えをおさらばするように首を振り、いつのまにか真っ暗になった空を見て急いで中に戻った。

いらないこと考えてる間にもう終わって帰ったとか間抜けすぎると思いながら、急いで廊下を走った。

しかし、俺の足は突然止まった。

『ある人に言われたんです。“ 守りたいものがあるなら一緒に守ってやる。だから頼れ " って。』

階段下で太刀川さんとAが喋っているようだった。

「A....？」

思わず小さな声が漏れる。無意識に口にしていたので、向こうに気づかれた様子はなく、ホっと胸を撫で下ろした。

『だから私は太刀川隊の皆を頼ろうと思います。そういう風に言ってくれた人のために、そして今度こそ自分が救えるはずの人を救うために。

そのために力を貸してくれませんか。太刀川さん。』

俺はさっきまでの自分に笑った。

“そうだった。あいつはそういう奴だった。”

守ってもらうために太刀川隊に入るんじゃない。
あくまでも、Aは守れた人を増やすために太刀川隊に入るんだっていう初歩的なことを忘れていた。

俺は太刀川さんの返事も聞かずに、玄関に向かった。

「惚れてんなー、俺。」

誰にも聞こえていない呟きは暗がりの廊下に消えた。

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