傷弾の鳥【出水公平】 (ページ11)

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10話ページ11

Aside

ボーダーに入隊して1ヶ月が過ぎた。

訓練を地道に重ねたお陰で、的の真ん中よりに当たるようにはなってきた。といっても、まだ動く的にはあまり安定しないけども。

「おっ、A先輩！隣お借りしますね～」

『今日も元気だね、佐鳥は。』

「元気が取り柄の佐鳥ですよ～！」

そう言うと、佐鳥は私の隣のレーンに荷物を降ろし、イーグレットを出した。

後輩の佐鳥だが、ボーダーとしては彼の方が5ヶ月前に入隊してるためちょっぴり先輩になる。今はまだ同じ訓練生で年も近いため、話す機会は自然と多くなった。

「そういえば、俺！めちゃくちゃカッコいい技思いついたんすよー！」

『へえー...』

「聞きたいでしょ？」

『うーん...別に...。』

「仕方ないなあ、A先輩は！」

『いや、あの。』

「でも、佐鳥がB級に上がるまでは秘密ってことで！」

『はいはい...。』

ろくな技じゃないんだろうけど、佐鳥ならやってのけそうだなあと楽しみに思ったのは秘密だ

・・・

今日の訓練で初めて上位15%に入り込むことができた。

訓練後に居残りで練習していたことや、その時に東さんが指南してくれたことが糧になったのだろう。

あと2週連続で入り続ければ、かなり早い段階でB級に上がることができるし、出来高払いでお金を稼ぐこともできる。自立の一歩目を踏み込めたことに安心を覚えた。

軽い足取りで出水を探していると、廊下で探し主が囲まれていることに気づいた。

『いずっ...』

「なあ、お前！B級に上がったら俺の隊に来ないか？」

「訓練生が終わったら、チームを作る予定なんけどよかったら来いよ！」

「私達のチーム、まだ射手いないんだけどどうかな？」

「えっとー....」

どうやら隊の勧誘らしい。トリオン量の多さで派手にデビューした出水は、トリオンの緻密なコントロールもできるらしく色んな隊に引っ張りだこらしい。

この様子じゃ、出水のとこに辿り着くのは無理そうだな...。仕方ない。

そう思って片足を踏み出すと、出水は私のことに気づいた。急いで人混みを割って私の腕を掴み、自分の元へ引き寄せた。

「俺、こいつと隊組むんで！すみません！」

『へっ？』

出水は人混みに言い放つと腕を掴んだまま、施設の外へ出た。

出水は前を向いてるから私の方は見えていない。
否、見えていなくて良かったと思う。

きっと今の私の顔は自分ですら見たことない顔になっていたと思うから。