【夢短編集②】 (ページ43)

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ci…隠し味は甘く(前編) ページ43

チーノはモテる。
チャラさのない口の上手さ、加えて長身で顔も良くてそして人懐っこい性格。
本当は中身真っ黒だったりするのに。

なので仲間内では詐欺師だなんて呼ばれてるらしいけど、まぁ確かにそうかなって最近思う。

職場はおろか、外出先でもよくモテる。
私が試着中に他の女の子の服の相談に乗ってたり、メンズ服の女性店員がやたら触れてたり、道案内しにどこかへ消えていたり。
他所の子には外面良くて、私には…。

「赤とピンクどっちがいいと思う?」

「知らん、どっちでもええんちゃう?」

憎たらしさ満点で、殺意がだんだん湧いてくる。
別にナンパしてるわけでもないし連絡先を交換してるわけでもないので言いようもなく、怒るに怒れずただモヤモヤして終わる。

「顔めっちゃブスなってんで」

「え、なんて?めっちゃ美人って?嬉しいわ～ありがとう～」

「ふははっ、Aの返し方ええなぁ」

「褒められてもなんっも嬉しくないわ」

「お会計するん?どっちにしたん?」

「赤」

「んふふ、また当たったっ」

丸眼鏡の奥で目を細めてしたり顔で笑うチーノを一発叩き、会計を済ませに行く。
当たったなんて、適当な事言って誤魔化して。

店を出ると、また女の子と話していた。
会話の内容なんて聞きたくないので、店の反対側の出口から出てアクセサリーを見る。

「お姉さんにはこれがお勧めですよ」

「あぁ…」

男性店員が勧めてくるアクセサリーはどれも私好みのものではなくて、かっこいいタイプの物ばかりだった。
分かってる、自分には可愛い系は似合わない。
友人からも可愛い系よりカッコいい系と言われる。

「絶対これが似合いますって!!」

「えっと…」

本当はこっちが良いって言ったら、似合わないって言われるんだろうな。

「じゃあ、こっ…」

「お前、こっちよりあっちのデザインやろ」

トンっと背中に誰かの体が当たった。
ガラスケースに置いた私の右手の横に、大きな手が置かれる。

「せやろ?A、あれのが好きやんな?」

「…チーノ」

「着けてみ?絶対、ぜーったい似合うで?俺が保証する、彼氏の俺が言うんやで?」

「…んっ」

「好きなやつ、言うてええんやで?」

ガラスケースに肘をついて、私の顔を見てにっこり微笑むチーノ。
普段憎たらしいのに、こういう時はかっこいいなんて、ずるい。

私は小さなアクセサリーの紙袋を両手に抱えて店を出た。

「そんな大事そうに持たんでもええやろ」

「ううん、大事なの」

「…そっか」