【夢短編集②】 (ページ32)

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ut…蒸せ返るほど甘く(後編) ページ32

「冗談抜きに、どうしたん。A～?」

髪を優しく梳いて、私の耳を優しく食む。
それがくすぐったいのと、泣き顔を見られたくないのとで余計に蹲ると面倒くさそうな溜め息の後に抱き起こされた。

「俺が凹みたいくらいやのに何でお前が凹んでんねん」

「…予約なんて、言わないで」

「冗談やろ?」

冗談じゃ済まされないのが鬱で、その冗談のような愚かさを許してきているのが私。
何番目の予約でも、本命は私でいてと離れたくないくらい好きだから。

カチッというライターの音、蒸せ返るような煙。
ムカつくのに嫌いになれない、好きなところもすぐ浮かんでこない。
こんな奴、どうして好きなんだろう。

「A、お前の好きなとこ言うたろか?」

「都合が良いとか?だって何されても許すもんね」

「違う、こんな馬鹿な俺を見捨てずに好きでおってくれるとこ」

「…それのどこに喜ぶ要素があるの?」

「せやなぁ…」

ぱちぱちと小さく弾ける音、煙草の煙を一層吸い込んだ音。

「A」

一際低い声に思わず顔を上げると、顎を掴まれて強引に口付けされたかと思えば、唇を少し離して煙を送り込まれた。
私は鬱の鋭い瞳に吸い込まれるように、病的にそれを受け入れて吸い込み、今度は自分から口付ける。

「ほんま、ばり可愛ぇ」

倒れ込むように求めると、鬱はしっかり抱きとめて返してくれる。

「好きで好きでたまらんって伝わるし、こんな俺をこんなに好いてくれる奴おらんで。そしたら、俺が誰よりもAを愛さな幸せにしてやれへんやろ」

「…意味、わかんない」

「俺も分からんくらい好きやねん。Aもそういうことやろ、俺の好きなとこ言えへんの」

「…どうしようもなくただ好きなの」

「同じやん、お似合いのカップルやな」

鬱はそう言って煙草を最後まで吸い込む。
私はそれをただうっとり見つめる。
鬱の手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でる。
煙草を灰皿に押し付けると、まだ残り香のする唇で私のだらしなく開いた口が塞がれた。

「何で急にどこが好き?とか聞いてきたの?」

「ん、女友達にさ。鬱って遊び相手には良いけど彼氏にはしたくないよね～って言われてん」

「あははは、ざまあ」

「ばりええ顔しとんなあ!!Aの彼氏がそんな言われようやねんで?」

「つまり、私以外相応しくないって事でしょ?」

寝転ぶ鬱を見下ろし、ふんと鼻を鳴らす。

「お前…俺、お前のそういうとこほんま好き」

でもなんか腹立つなぁ…。