検索窓
今日:45 hit、昨日:112 hit、合計:392,320 hit

事件 壱 ページ32

「ど……ドイルさん! 澤田氏が!!」

悲鳴が劈くと同時に、会場に騒めきが起こる。それは敦も例外ではない。寧ろ、つい先刻言葉を交わした彼が突然倒れたことに、ひどく動揺していた。
彼とは長い付き合いだという小林氏は、信じられないとばかりに目を見開いている。

「救急車を呼べ!」

そこで、一人の男性の声が響き渡った。見れば、先程の話の中で話題になっていた、毛利小五郎とか云う探偵である。彼の声に、給仕の一人が弾かれたように「はい!」と会場を出て行った。
それを確認して、毛利は徐ろに澤田氏の方へ向かう。敦達の方からでは、人が影になっていて何が起こっているかは分からないが、恐らく息や脈拍を確認しているのだろう。周囲に沈黙が降りた。

「ふむ……。」
「ドイル、さん?」

考え込むような素振りを見せるアーサーに、敦は思わず彼の名を呼んだ。

「確証は無いですけど、澤田氏は大丈夫だと思うですよ。」
「え? 何故、ですか?」

その遣り取りは、側で立ち尽くす小林氏の耳にさえ届かない程、小さな声で交わされた。当然、周囲の人間が気づくこともなく。

「原因が持病だとかの類に有るとしたら、診察もしていない僕には分からないです。けど、もし毒物によるものだとしたら……大丈夫です。」

アーサーは、そう言い切った。

「取り敢えず今は、救急車の到着を待つしか無いですけど。」

答えになっていない、と。そう思った。そうかもしれないけれど、そうでは無い。敦は、さらに「どうして、分かるんですか?」と質問を重ねる。するとアーサーは、暫し逡巡して、そして口を開いた。その右手には、いつの間にやら赤い硝子玉が握られている。

「僕が犯人を知っているから、ですかね。」

アーサーが、表情を変えることなく云った。

丁度その時、存外早く、数台の緊急車輌の警笛(サイレン)が聞こえてきた。到着は、もう直ぐになりそうだ。

事件 弐→←事件 一



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (521 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1179人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

美園(プロフ) - 今日はじめて見ましたがとても惹き込まれました! (12月24日 19時) (レス) id: 69d991c9f1 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 大好きな作品です…! (6月29日 17時) (レス) @page1 id: 7b1be7f011 (このIDを非表示/違反報告)
むる - え!?!?!?!更新なくて残念です泣泣泣めっっっちゃくちゃ気になります………すごく読みやすくて設定も凝っててめちゃめちゃ良かったです。 (2022年8月14日 2時) (レス) id: 6ed738b467 (このIDを非表示/違反報告)
ししゃも(プロフ) - 続きが凄く読みたいです。更新お願いします! (2022年7月27日 8時) (レス) @page43 id: 4d9c9f1a17 (このIDを非表示/違反報告)
舞琴(プロフ) - めちゃ続きが読みたいですっ!!!!更新待ってます!!!!!! (2022年4月23日 23時) (レス) id: 6e4f314873 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:菫色 | 作成日時:2018年4月29日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。