或る招宴 弐 ページ14
社を出て数分歩けば、待ち合わせ場所に着く。時間迄は未だ余裕が有り、敦は特に何をするでも無くぼうっと突っ立っていた。アーサーはアーサーで、何やら赤い硝子玉を弄んでいる。
不意に、アーサーが敦の方を向いて口を開いた。
「ーーところで、敦。“答え合わせ”の意味は分かったですか?」
唐突に問いかけられ、敦はビクリと肩を震わせる。そして、素直に口を開いた。
「じ、実は……未だ……。」
すみません、と申し訳無さげにする敦に、アーサーは「良いですよ。」と気に留めた様子もなく云った。
「受け入れ難いとは思うですけど、此れが事実な以上は如何しようも無いです。」
「……でも、彼の街がーー“東都”が、『存在しない街』だなんて……。」
「だから、『存在しない』じゃないです。『無い筈なのに有る』街です。」
*・*・*
其れは、初めて東都を訪れたあの日ーー喫茶ポアロで小さな探偵と遭遇したあの日の事だ。
あの日。社に戻った敦に、アーサーはこう投げかけたのだ。
『敦。今回の依頼人の住所、云えるですか。』
『えっと……東京都東都市米花町、でしたっけ?』
『ーー其れじゃあ、此の地図を使ってその“東都市米花町”とやらを見つけ出すですよ。』
アーサーは、東京都の地図を取り出して敦の目の前に置いた。其れを受け取って次々に頁を捲る敦だが、
『……見つからない、です。』
地図には、「米花町」の文字は何処にもなかった。
『そう云う事です。此れが、一つ目の『答え合わせ』ですよ。』
米花町、所謂“東都”と云う街は、この世の何処にも無い街だ。アーサーは、そう告げる。
『無い、と云うとやや語弊があるですね。より正確に云うならば、『有るとは云えない』と云ったところです。』
『ーー同じ意味じゃないんですか?』
『違うです。この地図は『有る』事を証明するだけで、『無い』事を証明するものでは無いです。事実、僕たちはあの街に足を踏み入れたですから。』
『……えっと、つまり?』
『あの街は、この世界に『無い筈なのに有る』街な訳です。これ以上は、自分で考えた方が良いですよ。機を見て、“模範解答”をあげるです。』
本当はもう一つ答えをあげる心算だったですけど、矢ッ張り辞めておくです。敦には、重すぎたですね。
アーサーはあの日、そう云って会話を止めた。
そして敦は今日まで、アーサーからの“宿題”に頭を悩ませていたのだった。
*・*・*
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美園(プロフ) - 今日はじめて見ましたがとても惹き込まれました! (12月24日 19時) (レス) id: 69d991c9f1 (このIDを非表示/違反報告)
彩(プロフ) - 大好きな作品です…! (6月29日 17時) (レス) @page1 id: 7b1be7f011 (このIDを非表示/違反報告)
むる - え!?!?!?!更新なくて残念です泣泣泣めっっっちゃくちゃ気になります………すごく読みやすくて設定も凝っててめちゃめちゃ良かったです。 (2022年8月14日 2時) (レス) id: 6ed738b467 (このIDを非表示/違反報告)
ししゃも(プロフ) - 続きが凄く読みたいです。更新お願いします! (2022年7月27日 8時) (レス) @page43 id: 4d9c9f1a17 (このIDを非表示/違反報告)
舞琴(プロフ) - めちゃ続きが読みたいですっ!!!!更新待ってます!!!!!! (2022年4月23日 23時) (レス) id: 6e4f314873 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:菫色 | 作成日時:2018年4月29日 20時