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京の街は寝静まり、物の怪達も息を潜める月すら出てない闇色の夜｡
その男はいつものようにおれと智君の前に現れた｡
｢まっずい｡
またあのおっさんだ……｣
目の前に立ちはだかった男が胸のあたりで印を組むと
空を舞う紙きれから小さな黒い翼が生えた｡
ひらひらと空を舞う細長い紙にはいくつもの梵字が描かれている｡
｢だから俺と翔君が取り憑いてるんじゃなくて!
あの娘が俺達を呼ぶんだよ!!｣
お札に黒い翼の生えた式神と智君の
二つの力の化身がぶつかり合うと
ぽっと青い火花が閃光のように闇に浮かび、大きく弾け無へと還っていく｡
｢貴様ら2匹は左大臣様が娘、初音様に取り憑き悪さをするにっくき物の怪ども｡
神妙に私に成敗されるがよい｡
……【音もなく 姿も見えぬ 呪詛神(のろいがみ) こころばかりに負ふてかえれよ】｣
空を舞っていた筈の紙きれ達はどろりと溶け
ぼたぁんと地に落ちると、今度は大きく腹の膨れた餓鬼へと形を変えた｡
｢なんだよ!!この石頭!!!
だから違うって言ってんだろ!?｣
｢翔君、ダメだ｡
あのおっさん、俺達の話に聞く耳なんて持ちそうにもないよ｡
……このまま適当にずらかって、初音んとこに行かなきゃ｡
俺達仲良く消滅しちまう｡｣
｢ったく…!
なんでおれ達ほどの物の怪が、あんな小娘にいいようにされなきゃなんねぇんだよ!!｣
｢翔君が原因じゃん｡
あの子が“餌”に捲いた菓子に眼がくらんで『縛』られるなんて、サイテー｡｣
｢唐の国いた頃食った、珍しい菓子だったから懐かしかったんだよ!!
……智君、来るよ!!｣
｢もぅ、メンドクサイなぁ…｣
ふわりと柔らかく、頭の上に振り上げた智君の両の手に
まるで黒い雪のように、
繊細な指に触れた羽根は見る間に漆黒の刀を形どり
智君はしっかりと両の手に二本の刀を握った｡
まるで舞いでも踊っているかのような優雅で身軽な足取り｡
確かに智君が操る二本の刀は闇夜に溶け込んでるのに
きらきらと光の軌道を描いて、陰陽師の式神を真っ二つに絶ち切っていく｡
朱色の粒子は眼の前で弾け、刹那、切り裂かれた札へ還っていった｡
｢翔君、今｡｣
静かな智君の声を合図に煙管の紫煙を吹き出す｡
｢しまった!
待て、物の怪ども!!｣
体を取り巻いた煙に隠れて
おれ達は面倒な男の前からずらかった｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
