02. ページ37
智君はいわゆる『男が惚れる男』ってヤツだった｡
体も小さくて線が細く、決して男臭いタイプじゃないのに｡
いざという時智君は潔く、常に白か黒かの決断を下せる男で
普段はいい加減で頼りない癖に、
凛と冴えた月夜のような、そんな一面がある男だった｡
両極端な二つの顔を持ち、魅力たっぷりに笑う大野智という男は、
おれが持っていた今までの常識まで
易々と飛び越えるようなことまでやってのけるからか
時が経つのまで忘れちまうくらい、一緒にいる毎日が堪らなく楽しかった｡
人間の価値判断で解釈すれば、
なかなか残忍な真似までやってのける小柄な烏天狗は
決して女子供や貧乏人などの、弱い立場の人間は傷つけなかった｡
だけどある日
当時の時の権力者が、最先端科学を終結させた陰陽寮で、
頭角を現し始めたある男におれと智君の成敗を命じた｡
・
｢陰陽？
陰陽ってあの？
夏になるとたまにテレビでやるじゃん｡
式神…とか、除霊とか、オカルトチックな特番｡
アレが科学の最先端なの？｣
薄茶の瞳が好奇心からくりくりして、なんだかニノ、柴犬っぽいな｡
おれは湯呑のお茶を啜ると、ニノに笑いかけた｡
｢平成の御世を生きるニノにはそう見えるかもしれないけどね｡
間違いなくあの頃の陰陽は、科学の最先端だったんだよ｡
平安時代の貴族達は、その日、行く方向まで八卦で決めてたくらいだからね｡
病気だって祈梼で調伏させようとしてたんだもん｡
あの頃は今よりもずっと、おれ達人外の者と人間との垣根が低かった｡
結構有名なおっさんだから
ニノも名前くらいは知ってるかもよ？
おれと智君、蛇みたいに追っかけてた陰陽師…｣
｢誰？｣
｢安倍晴明｡
本当は人間じゃないんじゃね？って言ってやりたくなるくらい、厄介な男だったよ｡｣
湯呑の茶をまた一口すすると、ニノにまた笑ってみせた｡
・
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
