03.僕のあしながおじさん/N ページ4
階段を下りてくる音がする｡
パタパタとせわしなく聞こえる相葉さんの足音とは対照的に
ゆっくりとした優雅な歩調｡
いつもと同じ、あの人の足音｡
一号室に住んでる、大野智｡
じいちゃんが死んだ時、オレの後見人になってくれた人だ｡
オレは智のおかげで児童養護施設に入らなくて済んだし
昔から住んでたこの家を明け渡さずに済んだ｡
今じゃ無駄にデカイこの家に少しだけ手を加えて、
下宿屋、『にのみや荘』を営んでる｡
この家を下宿屋にしたのも
『他人の手』だと差し出したコイツの手を振り払ったオレに
“人の世話になるのがイヤだって言うんなら、この家、下宿屋にでもする？
そしたら俺もここに住めるし、そっちだってただ俺に『甘える』ってのとは意味が違ってくるでしょ？”
コイツがふにゃふにゃ笑って言い出したことだ｡
｢アンタさぁ、人に会うってのにそんなラフな格好でいいの？
お仕事系の人なんでしょ？
ネクタイでも締めて、もうちょっとシャキッとした方がいいんじゃない？｣
智の格好は濃い目のブルーのサマーニットに、タイトめの黒のパンツスタイル｡
｢え〜、そんなのメンドクサイよ｡
別にいいよ。
洋服で仕事する訳じゃないもん｡｣
智は神社仏閣の天井画や屏風絵、
歴史的に価値の高い装飾品を修復する美術修復家、通称『宮絵師』をしてる｡
ソッチの業界ではかなりの有名人みたいで
そこそこ大人の偉いカンジの人が、
智のこと、『先生』って呼んでたのを聞いたことがある｡
「まぁ、アンタがそう言うなら、オレは別にどうでもいいんだけどさ。」
普段は甚平とか、作務衣とか
和装を好む智が洋服でいること自体、結構珍しいことなんだけど｡
｢ねぇ、そんなことよりさぁ…｣
初めて会った時は、オレより背が高かったのに｡
いつのまにかちょびっとだけ自分よりでっかくなったオレに
智は後ろからぎゅーって抱きついてくる｡
｢ふふっ、おはよ〜、ニノ｡｣
｢オハヨ……って｡
だから抱きついてくんなよ、朝から暑苦しい｡｣
相葉さんにはしない癖に｡
朝の『おはよう』をオレに言う時、智のヤツ、必ず後ろから抱きついてくる｡
｢…ッ…!
だからソレもやめろって言ってんだろ!?
鬱陶しいわ!!｣
しかも必ずオレの首筋に、唇押し当ててくるんだよね｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
