26.欅のひとりごと｡ ページ27
……夜風に千切れ、坊ちゃんをはじめとする楽しそうな笑い声が
私の元にまで聞こえて参ります｡
私の枝には数羽の
穏やかで満ち足りた主人の表情に、満足げに低い鳴き声を上げております｡
『なぁ、欅よ｡
わしが幼き頃植えた欅よ』
月の光に魔性が宿るこんな夜は、風が死人の声まで運んできてくれます｡
『和也はこの先、大丈夫なんじゃろうか｡
物の怪どもに襲われて、恐怖におののきながら死んでいくような、そんな不憫な目に遭わずに済むじゃろうか？』
私は精一杯風に緑をなびかせ、死して尚、孫を案じる我が主の問いに応えます｡
“坊ちゃんを守護するのは、御仏をお守りする八部衆の一、迦楼羅天様が変化た烏天狗の末裔…｡
彼は貴方様の思惑通り、坊ちゃんに魅入られておりまする｡
決してこの先も坊ちゃんに対して、
それでも坊ちゃんに害が及ぶような事があらば…
百鬼夜行すら打ち砕く、『呪文』がありますゆえ……
ご心配にはおよびませぬ……”
一際強い風が吹き抜けて、私の緑達がザァ…と音を立てます｡
我が主の至宝、和也坊ちゃんは
神世に生きた五穀豊穣の女神、
坊ちゃんに引き寄せられるようにして
ここ、にのみや荘には
珍妙な者どもが集って参ります｡
そして坊ちゃんを中心に新たなる物語が
始まろうとしているのです………｡
・
Episode1『にのみや荘へようこそ・終わり』
【Episode2】「御伽の箱」01.Sunday morning/N →←25.にのみや荘へようこそ/N
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
