今日:12 hit、昨日:1 hit、合計:66,205 hit
小｜中｜大
『俺が忘れさせるって言うたやん。
もう先生のことなんか思い出せんようになるくらい、いっぱいにするって。幸せにするって。』
廉の声が震えていた。
それを聞いた途端、抑えていた涙が一気に瞳から溢れ出した。止められなかった。
「………ごめん、」
『………何が足りん？』
ただわたしが、狂いそうなほど先生を愛しているだけだ。
「廉、ごめんなさい。」
『そんなん聞きたないって…、』
「わたしを好きになってくれて、ありがとう。」
涙声で振り絞った言葉。
そして初めて聞いた、電話の向こうで廉の啜り泣く声を。
迷うことなく、躊躇うことなく、通話を切る。
それなのに廉の声が耳の奥で響いてくる気がした。
廉のことを心から好きになれたら、わたしはきっとただただ幸せなのに。どうしても選ぶことができない。
「………A。」
背後で平野先生の声がした。
振り返る間もなく、背中からそっと抱きしめられる。
「………先生、これから、どうしますか？」
わたしの言葉に先生はしばらく何も言わず、ただ体を解放してわたしを前の体を反転させるだけだった。
「恭子とは別れるよ。」
「………ちゃんと話したんですか？」
「うん。………でも、離婚は、一方的にはできないから。」
「じゃあ何も決まってない？」
「…うん。」
「それならどうして、わたしのところに来たんですか。こんなふうに逃げるみたいなことして。わたしには全部捨てろって言ったくせに。」
切なげに揺れる先生の瞳。
その奥で、空に広がる朝焼けを見た。
灯台が、高く聳え立っている。
先生はまた、今度は正面からわたしを抱きしめる。
冷たい空気が一気に温度を上げた。
「子どもみたいだと思うかもしれないけど、………ただ会いたくて、迎えに行った。他のことは何も考えられなかった。」
わたしたちはこれから、どうしたらいいのだろう。
このままふたりきり、幸せな未来を歩んでいけるわけがない。そんなことは分かりきっていた。
神様がわたしたちに、幸せなんてものを用意してくれるわけがないのだ。待っているのは絶望だけだ。
視界に映り込む灰桜は、あの時と変わらずあまりにも綺麗で、胸がひどく締め付けられる。
×××
107sins ページ7
×××
『俺が忘れさせるって言うたやん。
もう先生のことなんか思い出せんようになるくらい、いっぱいにするって。幸せにするって。』
廉の声が震えていた。
それを聞いた途端、抑えていた涙が一気に瞳から溢れ出した。止められなかった。
「………ごめん、」
『………何が足りん？』
ただわたしが、狂いそうなほど先生を愛しているだけだ。
「廉、ごめんなさい。」
『そんなん聞きたないって…、』
「わたしを好きになってくれて、ありがとう。」
涙声で振り絞った言葉。
そして初めて聞いた、電話の向こうで廉の啜り泣く声を。
迷うことなく、躊躇うことなく、通話を切る。
それなのに廉の声が耳の奥で響いてくる気がした。
廉のことを心から好きになれたら、わたしはきっとただただ幸せなのに。どうしても選ぶことができない。
「………A。」
背後で平野先生の声がした。
振り返る間もなく、背中からそっと抱きしめられる。
「………先生、これから、どうしますか？」
わたしの言葉に先生はしばらく何も言わず、ただ体を解放してわたしを前の体を反転させるだけだった。
「恭子とは別れるよ。」
「………ちゃんと話したんですか？」
「うん。………でも、離婚は、一方的にはできないから。」
「じゃあ何も決まってない？」
「…うん。」
「それならどうして、わたしのところに来たんですか。こんなふうに逃げるみたいなことして。わたしには全部捨てろって言ったくせに。」
切なげに揺れる先生の瞳。
その奥で、空に広がる朝焼けを見た。
灯台が、高く聳え立っている。
先生はまた、今度は正面からわたしを抱きしめる。
冷たい空気が一気に温度を上げた。
「子どもみたいだと思うかもしれないけど、………ただ会いたくて、迎えに行った。他のことは何も考えられなかった。」
わたしたちはこれから、どうしたらいいのだろう。
このままふたりきり、幸せな未来を歩んでいけるわけがない。そんなことは分かりきっていた。
神様がわたしたちに、幸せなんてものを用意してくれるわけがないのだ。待っているのは絶望だけだ。
視界に映り込む灰桜は、あの時と変わらずあまりにも綺麗で、胸がひどく締め付けられる。
×××
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1589人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こころ(プロフ) - 更新ありがとうございます！続きも楽しみです！ (2020年12月16日 23時) (
レス) id: f2c5e943bf (このIDを非表示/違反報告)
niko(プロフ) - 更新待ってました！！雨音さんのお話は切ないところもあってとても惹きつけられます。何度読んでも飽きません。これからの更新も楽しみにしています！頑張ってください！ (2020年12月16日 23時) (レス) id: 250948a169 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - Lさん» ありがとうございます。久しぶりに続きを更新しました。お待たせ致しました！ (2020年12月16日 22時) (レス) id: 22fe178912 (このIDを非表示/違反報告)
L - 泣きました！続きが気になります！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 16ad01b6c9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨音
| 作成日時：2020年10月26日 21時
