終わったあとの話（�供� ページ10
「高杉お前────」
立ち上がろうとしたのも束の間、高杉の細長い五指に口を乱暴に掴まれ、畳の上に押し倒される。
「─────!!!!!」
何とか振りほどこうと暴れるが、暴力的な程の力で押さえつけられてしまう。
口を塞ぐように掴まれているのもあり、もがけばもがくほど息苦しくなる。
気がつけば高杉は希美の身体に馬乗りの体勢になっていて────希美はこの行動を見てようやく理解した。
簡単に逃がすつもりは無いのだと。
「飛んだじゃじゃ馬姫になっちまったモンだなァ、希美。たった三日過ぎただけだってのに・・・・嫌いになっちまったのか？｣
「───────っは｣
塞いでた手が開放され、息切れを起こしている肺に酸素をしどろもどろに送り込む。
しかし身体は動けるはずもなく、真上にいる高杉晋助という男の存在を見上げていた。
「しかし・・・随分といい女になっちまったなぁ。これも鬼の副長さんのお陰なのかい｣
「ほざけ・・・俺は目を覚ましただけだ。
そもそもお前は俺に嘘を吐いていただろ。『愛してる』ってのも『傍にいる』ってのも・・・その場しのぎの嘘だったんだろ・・・？」
希美は曖昧な記憶を思い返した。
あの時の高杉の言葉は、確かに乱心した自分の心を落ち着かせていた。でもそれには暖かさがなかった。
上辺だけの、嘘だらけの、その場しのぎの─────戯言だった。
希美は睨んで高杉を糾弾する。これまでの鬱憤を晴らすかのように、激しく責める────。
「俺が嘘を言うと思うか？」
高杉から返ってきた答えは、希美が想定していない言葉だった。
あまりの意外すぎる言葉に、呆気にとられるような声が漏れるほど。
「・・・・・最初にあった時のお前は。昔の俺に似てるんだよ。大切な人を失って絶望していた俺に似ていて・・・放っておけなかった｣
「・・・・・じゃあ、なんであんな事を・・・・｣
「聞こえたんだよ・・・お前の中の黒い獣が。
血に飢えた黒い獣が、理不尽な世界に怒り狂った獣の叫びが─────聞こえたんだよ｣
高杉の手が希美の頬を撫でる。その瞳には確かに、絶望と怒りと憎しみがそこに孕んでいたのを、希美は確かに見た。
────京蘭高校の惨劇は、何もかも壊した。
阿鼻叫喚、慟哭地獄、血みどろの惨劇────そんな言葉が相応しいような地獄。
ありったけの地獄を煮詰めた地獄のようだった。
そんな地獄を生き抜いて、死にかけで空っぽの春咲希美を助けてくれたのは、高杉晋助だった。
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