終わったあとの話（高杉×希美） ページ9
突拍子もない展開だった。だがこれは直ぐに事実だと気づいた。
春咲希美は、微睡んでいた意識を呼び起こして辺りを見回す。
畳の感触を感じとりここは自分の家ではないと気づく。そして、朧気な頭で記憶を呼び起こし、希美は事を整理をする。
─────新譜を買いに行くって外に出た。
─────電車に乗って渋谷に来た。
─────渋谷の裏通りに向かった。
─────そこで、
──────そこから、記憶が途切れてる。
「・・・・・・・・・・・・・」
ようやく、ようやく鬼兵隊という甘い罠の手から逃れたと思ったら人攫いの被害者になるとは───。
希美は呆れたようなため息を着いた。
自分の不運さを、呪うようなため息を。
しかし何故か胸が高鳴って、鼓動がうるさい。
ここにいてはいけないと、警鐘が鳴り響いてうるさい。
そういえば、ここはどこか懐かしい感じもする。
春咲希美はこの空間を知っている。
自分はこの場所を知っている。
朧気な記憶を、もう一度遡った。
「─────そういえば・・・最後に高杉にマーキングされた時も・・・・・｣
あの時は、西に沈む夕焼けがとても眩しく感じられた。
夕日が綺麗に映っていたのを、曖昧ながら覚えてる。
「────────────」
確か太陽は東から昇って西に沈む。
自分が出たのは午後三時。太陽は西に傾き始める。
そして今は西日が眩しく光っている。
西日、夕焼け、夕日────────。
バラけたピースがようやく揃い、曖昧な記憶のパズルが完成した。
しかしそのパズルは───度し難い真実でもあった。
「──────────うそ、だろ」
部屋の正体がわかった。
ただのデジャヴじゃなかった。
胸の高鳴りの意味も、頭に響く警鐘の意味も─────全部、分かってしまった。
「・・・・思い出したか。全部」
頭の上から声が聞こえた。優しいような劇薬に似た甘い声が希美の耳に入る。
─────新譜を買いに行くって外に出た。
─────電車に乗って渋谷に来た。
─────渋谷の裏通りに向かった。
─────そこに
─────踵を返すように逃げた。
─────後頭部を殴られて気を失った。
「仕方があるめェ。あの時のお前は生きてるようで死んだようなもんだ・・・ここがどこかも忘れて当然だと思ってたが─────思い出すとはな｣
春咲希美は、視線を上に向ける。
高杉晋助という獣がほくそ笑んでた。
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