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「取り敢えず屋上を目指せばいいかな」

こちらを振り向いたAは俺の玉犬を見る。そのままマンションへ足を踏み入れた。
ずっと人が立ち入られていない埃っぽい空間。しんと静まり返るマンション内。帳を張られたためか呪霊がちらちらと姿を表し、俺たちを見つめる。

「雑魚は俺がやる、Aは本命だけをやってくれ」

玉犬は襲いかかってくる呪霊たちをバクバクと食いながら俺たちはそのまま屋上を目指して階段を上がる。こういった呪霊が複数出てくる場所にはAの術式はあまり向かないのだろう、いちいち感覚を共有なんてしてられない。だから五条さんは俺をサポートにつけたのだ。

「伏黒くんの、玉犬ってすごいね。呪霊食べちゃうんだ」

俺の後ろをついてくるAは階段を上り、やや息を切らしながら俺に声をかけた。ふと足を止めAのほうを振り返る。急に足を止めた俺をみてAは不思議そうな顔をする。

「食べられるのは嫌か」

「え……」

「自分なら救えるのにとか思ってんのか」

目を僅かに開くA。返事がないのは肯定と同義だ。

「呪霊すら救おうとするなんて俺は馬鹿げてると思う」

ひゅ、と息を飲む音が静かな空間に響く。きっと今俺がこいつに言った言葉はAにとって存在意義すら揺れ動かす極めて残酷な言葉だ。

「呪霊は生き物じゃない。ただの人から漏れ出た感情の塊だ。意思なんてない。それを救おうをするAは……」

言葉は続かなかった。見下ろすAの瞳は僅かに涙の膜を張っていたから。自分の当て所のないAへの感情を僅かな歪からこぼれ落として。そんな自分に苛立つし、なにより俺にいいように言われてただ涙を貯めるAにも苛立つ。奥歯を僅かに噛んで、視線を上へ向けた。

「……屋上行くぞ」

自分でも分かるほど棘を纏った声だった。止まっていた足を再度動かす。階段を踏みしめる一歩がいつもよりも重いような気がした。自分が数段足を進めてから後ろに立ち尽くしていたAも階段を上り始める。ぽつりとつぶやかれた声に気づかないふりをした。

「……分からないよ、伏黒くんには」

―――呪霊が、助かるなら。みんなの負の感情が、消えていくなら。

以前、Aのいった言葉が頭をよぎった。

この世の人間全員、負の感情なんて無くなることはないのに。

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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません‪‪💦‬ (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時

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