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対価 ページ11

最悪だけどそれしかない。ハッキリ言って指一本で済むなら安い話。腕一本や足一本だとしたら同じくらいかな。それでも僕の中だけで事を納められる。それは何にも代えがたい。もちろん腹の虫は収まらないから、マフィン君にも同じ目に遭ってもらうけど。

 シャーロックは煙草を燻らせながら、長いこと黙っていた。僕を見ながらじっと考えている。

 この部屋には音の鳴るものがない。机の上のPCは閉じられているし、バイオリンは弾き手がいない。それに彼は僕と同じように、秒針の鳴らない時計を使っているからだ。だって、考えてもみてごらん。もしも時限爆弾を仕掛けられた時、手持ちの時計の音のせいでそれに気付けなかったら馬鹿みたいじゃないか?

 だから一層、外の騒ぎがよく聞こえた。
 飛び交う怒号、クラクション。そして、トッコトコと遠慮がちに不規則なリズムを刻みながら近づいて来る、若者の足音。ああ、あれは小さな悪漢(ピカロ)の行進だ。マフィン君が帰って来た。

 すぐに玄関の扉が開く音が聞こえ、僕は内心慌てる。メモリの件について話していることをマフィン君が知ったら、きっとまた面倒なことになる。



「まだ決まらないのかい」僕はシャーロックに催促した。
「僕は暇じゃない。とっとと終わりにしたいんだ。君もいつまでこんな茶番に付き合っているつもりだい」
「そうだな、そろそろここらで幕とするか」

 シャーロックは短くなった煙草をベット脇の灰皿に投げ捨て、封筒を僕の膝に落とし、「指を出せ」と低く言った。
 
 へえ、指一本で済ましてくれるのか。
 優しいじゃないかと少し拍子抜けしながら、僕はさっと右手を出した。白くて細くてすらりと長い、どんな時でも思い通りに動いてくれた自慢の指たちを。
 利き手ほどではないけれど、この指たちには今までずいぶん世話になった。離れた子は後で手厚く葬ってあげよう。

 シャーロックは樫の木のように細く頑丈な手で僕の手を掴む。そして、品定めでもするつもりか、ゆっくりと親指で僕の指の一本一本に触れた。さらさらと、なでるように。
 ただただその動作があんまり遅いので、僕は戸惑った。じらしているようには見えない。
 彼はまるで、感傷に浸っているみたいだった。
 僕の指を切るのがそんなに惜しいのか? 意味が分からない。

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設定タグ:シャーロック , オリジナルBL , 腐女子   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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シャーロック(プロフ) - Riruriさん» うわ〜!嬉しいお言葉を本当にありがとうございます!お待ちしておりますのでぜひよろしくお願いします!感謝しております! (11月26日 0時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ネット販売おめでとうございます…!生憎金欠なので、お小遣い入ったら光の速さで購入させていただきます。本当は今すぐにでも欲しいですが……無念。これからもシャーロック様としての活動、カイマナふぁみりー様としての活動共に陰ながら応援しています! (11月24日 16時) (レス) id: fa82e694ee (このIDを非表示/違反報告)
シャーロック(プロフ) - Riruriさん» お返事遅くなってすみません!実は数日前から私が脳梗塞なんじゃないかって家族と大騒ぎしていて、とても余裕がなかったんです(汗)ハロウィン短編を喜んで頂けてとても嬉しいです。敵対関係にないのに互いに踏み切れない二人。歯痒いけれどもそれがいい! (10月15日 22時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - 別世界線の二人も中身はそのままなのに設定が違うだけでここまで関係性も変わっていくのかと驚きましたし、それと同時により二人のことが大好きになりました💞素敵な作品を読ませてくださり本当に有難うございます!!読みにくい長文コメント失礼致しました💦 (10月11日 14時) (レス) id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ハロウィン編、物凄く素敵です…!!新たな設定の二人と知り、どうなるのかとワクワクしながら読み進めていきましたが、そのワクワクを遥かに上回る程の面白さ、“尊さ”でさっきから溜め息が止まりません笑 物語の進め方、まとめ方も凄く美しくてただただ尊敬です…… (10月11日 13時) (レス) @page35 id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:シャーロック | 作者ホームページ:https://kaimanafamily.wixsite.com/welcome-to-sanctuary  
作成日時:2022年11月14日 17時

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