狐火 ページ5
「んふふ、可愛ええなぁ。すっかり怯えちゃって…僕女の子虐める趣味はないから安心してええよ」
鼓膜を蕩けさせるような吐息混じりな声が
耳元で囁くようにして聞こえた。
私の髪を掬うようにして触れる手の感触に
びくりと肩を震わせ、思わず体を縮こませた。
「取って食う事はせえへんからな､まぁ保証はせんけど。」
ぽつりと呟かれた言葉を聞いて、目に膜が張る。
「嘘やからね？純粋すぎて心配になるわぁ」
よしよしと私の頭を撫でるこの人が稲荷様らしい。しかしこの人、本当に掴み所がない。
薄暗い森の中、狐火がぽつりぽつりと浮かんでいた。稲荷様はそれに着いていくように進んでいく。
すると突然道が開けて、鳥居が現れた。
「あー、やっぱり疲れるわ…道長いし、
何でこんな所に神社なんて建てたんやろ､
誰もいないしつまらんわぁ」
これは、もしや大きな独り言？
「まぁ、今日から暫くの間､退屈しのぎにはなりそうやけど」
振り返ってにこりと微笑む稲荷様｡
いや、この人の場合にやりと言った方が正しいのかもしれない｡
どちらにせよ身の危険を感じた事には変わりないのだが。
百はあるであろう鳥居の中を潜り、道を進む。
最後の鳥居を潜り終わる頃には､
私は疲れ果てて座り込んでしまっていた。
「お疲れ様、ちょっと待っててな｡水汲んでくるわ。」
稲荷様は突然そう言うとさっと姿を消し､
次の瞬間にはまた私の前に姿を現した。
差し出された水は月の光を映して神秘的に輝いている｡けれど、飲むか飲まないかで私は迷っていた。
何か、毒でも入っているんじゃ…と疑わずにはいられない。
「毒とか入っとらんからな､それ」
少し不機嫌そうに鋭い視線をこちらに向けていた。
図星をつかれて肩が跳ね上がる｡
「じゃ、じゃあありがたく頂きます｡」
そう言って水を飲み込んだ。
ほのかに甘く､冷たいごく普通の水だ｡
「疑っちゃってすいませんでした｡」
そう言って笑うと稲荷様は黄金色の耳をぴくりと震わせた。
「すみません、やろ？」
「え……？」
「すいませんじゃなくて、すみませんやからな。しっかり覚えとき？」
なんだこの小姑みたいな神様は！？
非常に面倒臭い…
「は、はい。すみませんでした。」
そう言って頭を下げると満足げに笑い、
「じゃあ神社の中入ろか〜」
なんて言いながら勝手に一人で行ってしまった。
どうやら私、とんでもない神様に魅入られたようです。
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来夏_raika(プロフ) - 心愛さん» コメントありがとうございます！更新頻度はかなりゆっくりめですが楽しんで頂ければ幸いです〜！これからもこの作品をどうぞ宜しくお願い致します；； (2018年12月5日 21時) (
レス) id: 4db2d60ea2 (このIDを非表示/違反報告)
心愛 - 更新楽しみに待ってます！ (2018年12月4日 21時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：raika | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/seyu/
作成日時：2018年8月26日 23時
