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【真冬side】
『お願い、もう一回会ってほしいの…』
そう言いながら電話ごしに甘ったるい声を出して、訴えてくるのはこの前のセ フレの女、うら子だった。
「俺、言ったじゃん?この前で最後だって」
俺はうんざりして
何度吐いたかわからない溜め息をもう一度吐く。
『それでも…それでももう一回会いたいの!!お願い!あと一回で良いからお願い!!』
「お前のお願いはもう聞き飽きた」
俺は煙草を口に銜えジッポで火を点ける。
それと同時に自分自身最低な奴だとつくづく思った。
うら子と初めて会ったのは、半年くらい前の合コンだった。
自分の容姿を自覚してない訳じゃない。
連れからはいつものように"お前に生まれたかったよ"なんて言われるけど、実際はそんなに良いモンじゃない。
所詮俺に近寄ってくる女なんて顔と体目当て。
うら子はそんな女の中の一人だった。
別に俺も体だけの関係が嫌な訳じゃない。
ただ、中には"お友達"から本気になる奴が居る。
うら子は典型的なそのパターンで一ヶ月くらい前から
付き合って欲しいとせがまれていた。
『まふじゃないとダメなのっ!!まふがいいのっ!!』
電話ごしにうら子のすすり泣きが聞こえる。
『お願いだよ、まふ…』
徐々に小さくなっていくうら子の声。
でも、もちろん俺のこたえはNoだ。
「約束を破ったのはお前だろ」
「俺に本気を求めるな」
俺は彼女なんて作る気はさらさらなかった。
でも、うら子は"セ フレでも良いからっ!!"
そう言って俺を誘ってきた。
これは絶対に破ってはならない俺達の約束。
でもこの時点で、こうなる事は目に見えていた。
今更ながら、うら子と体の関係を持ってしまった自分に後悔という名の感情が込み上げてくる。
『それでも私だけを見てほしい…』
「ふっ…」
そんな彼女の言葉に思わず小さな笑いがこぼれた。
ここまでエスカレートさせてしまった自分自身に嫌気がさす。
明らかに俺の所為だ。
口から出たのは自嘲的な笑い。
でも、うら子は俺が馬鹿にしていると思ったのか…
『私っ!!まふの事絶対諦めないからっ』
うら子は少し声を荒げて最後の一言を口にすると唐突に電話を切った。
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