アイツの背中

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今日もアイツの機嫌はすこぶる悪い。


「A！A！
何やってんねん。
はよクライアントんとこ行くで！」


「ちょっと待ってよ。
まだ出来てない！」


水周りの導線がいまひとつだって、
別件の今日締め切りの図面をやり直せって、
今朝になって言い出したのは、
オークラのくせに。


信じらんない。


「仕事がおっそいねん。
ちょっと見せてみろ」


オークラが私の元へつかつか歩み寄って来る。

怖い怖い怖い。


すんごい気迫に、
思わず、
後ろなんかないのに後ずさりしたくなるわ。


「ここ。
もっと使う人の立場になって考えてみろや。
そしたらこんな導線、考えられへんやろ。
こっちから出入り出来るように変更してみろ。
すぐ出来るはず」


うちの大倉部長は、
いつもは可愛い子グマみたいなのに、
仕事となるとほんとに手厳しい。


私のすぐ後ろから、
パソコンの画面覗きこみながら、
マウス使ってくるもんだから。


心臓が否応なくバクバク言い出す。


近過ぎるってば。


上司と部下の距離じゃない。


「分かった。
すぐに直すから」


ドキドキしてるの悟られないように、
妙に冷めた口調になる。


「はよしろよ。
車回してくるから。
エントランスの前で待っとけ」


命令口調はいつものこと。

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