排除 ページ11
「……なんで」
それ以外、言葉が出なかった。だって確かに彼女は探偵社員だった。ほんの──二か月前まで。
優しい先輩だった。
与謝野さんと仲が良くて、太宰さんとは仲が良かった……とは口が裂けても言えないが、互いに信頼してはいるのが見て取れた。
それがどうだ、彼女はいま敵として僕の前に立っているじゃないか。
「やっぱり、あの時の事──ですか」
Aさんが首をすくめて笑い、何か言おうと口を開いた。けれど、音がその喉を通り抜ける前に──芥川が彼女の襟を掴んで、思い切りアスファルトに引き倒した。
「いっ……!」
「“死者蘇生”の裏切者が再び組織へ戻ってきたと聞いた。真逆、探偵社の女医がそうだったとはな」
芥川は顔をしかめる。痩せて骨の浮き上がった手が彼女の首を締め付けた。一瞬の出来事で、僕は動揺していて、咄嗟に脚が動かない。
「意外……だね。君は何処かのチビみたいに、私が抜けたせいで部下が死んだ……とか、柄じゃな、いと思ってた、け……どっ」
「無論だ。だが、裏切者は排除するのみ」
ぐ、と芥川の手に力が入ったようで、彼女は苦しそうな呻き声を上げた。
血が回らなくなってきたようで、徐々に抵抗が小さくなってゆく。
と、彼女の目に仄暗い光が入る。
彼女は襟首から白衣の内側に素早く手を入れると、慣れた手つきで芥川の腕を袖ごと刺した。
目を見開いて距離を取った芥川が、数瞬ののちに膝から崩れ落ちた。昏倒している。
彼女は咳き込みながら、歪に口角を上げて立ち上がる──その手に握っていたのは、注射器。
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作者名:夕野きする | 作者ホームページ:http://http://commu.nosv.org/p/asubook/
作成日時:2019年2月23日 15時