未明、視線と共に/ 還元 ページ1
目が覚めた。
外も暗いからまだ夜中なのだと思う。
携帯端末を確認しても、未だ午前三時。
いつもなら休みの日なんて意地だって昼まで起きないのにどうして起きてしまったのか。回らない頭で暫く考えて、ようやっと結論を得たときには体を完全に起こしていた。
寝具の上で不自然に残った俺以外の体温。
俺のものではないシャンプーの香り。
彼女がいない。
今日はというと、珍しく彼女のほうが俺の家に泊まりに来ていて。居なくなった華奢な肩を探して見慣れた部屋中を探し回った。まぁ当然、寝起きのやつは頭なんか回らないので先に三和土を見るなんて思考には至らなかった訳で、非常に無駄な時間を過ごすことになる。
取り敢えず、やはりこの家の中にいないことはわかった。
外に出られないような格好でもなかったから、財布と携帯、鍵だけを持って、最後に適当に上着を掴んで家を出た。別に寒くはなかったけれど、彼女が寒い思いをしているかもしれないと思って。
走ったりはしない。最初こそ焦ったものの、冷静に考えれば彼女がどこにいるかなんてすぐに分かったからだ。
彼女とは家が近いから、もしかすると帰っているかもしれないけれど。多分違うのだろう。今回も。
歩きながら端末に適当に指を滑らせた。
[今から行くから]
「Aさん」
彼女がいた場所は、いつか、彼女が俺に告白した公園だった。
今でも思い出せる。彼女はあの日、俺の目なんか全然見てくれなくて。
出会いと別れがすぐそこまで迫っていそうな、春先の出来事だったはずだ。
それは彼女が他の企業に就職するためにライターをやめるのだと言い出した日から、何日も経たずに起きた出来事だった。
「私、川上くんのこと好きだったんだよね」
彼女は、もうかなり夜も更けってしまっているような、ほとんど朝のような公園でそう呟いた。しっかりと聞き取れていたのに、もう一回、確かめたかったなんてくだらない理由で聞き返してしまう。
「…なんて?」
「聞いてたでしょう?」
「…すいません。でも俺、その」
「いいんだよ別に、言いたかっただけなの。困らせたかったわけでも何でもなくて、ただ、自分がここからいなくなっちゃう前に。気持ちの整理をするために言いたかっただけだから」
「…いいんですか?」
「いいんですか、とは?」
「俺はよくないですよ。そんなすぐ諦められて」
302人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぶっく。(プロフ) - どの作品も本当に素敵で、すべての話で心を動かされました!文章がとても綺麗……!最高の7名がそれぞれちがう時間を軸にした物語を展開されていて、本当にそれぞれちがう良さがありました。読んでいてとてもとても楽しかったです!ありがとうございました! (2020年4月8日 4時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 神作者の皆様、執筆お疲れ様でした!どれもこれも素敵な作品で、一つ更新される度に胸を躍らせていました。本当に素晴らしい作品を有難う御座いました…!! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
還元(プロフ) - いろさん» 読んでいただきありがとうございます。この後もまだまだ素晴らしい作品が続きますので、どうぞ最後までお付き合いください!コメントもありがとうございました! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 0ea79b5d61 (このIDを非表示/違反報告)
はるむにに(プロフ) - 神々の集まりですね、、本当すごいです(語彙力)次のお話も楽しみにしております! (2020年4月1日 22時) (レス) id: 33dd96b3e7 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - なんと…凄い神々が集まって作品をお造りになられたのですね、一話目から凄かったです。皆さんの見れるなんて…最高です。ありがとうございます。 (2020年4月1日 20時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:830 x他5人 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月29日 15時