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「その日」が決まってから、会社は休みになった。動画を投稿し続けるかはメンバー内でもかなり議論したが、仕事に追われて出来なかったことを今のうちにやっておこうという意見を尊重し、動画撮影はやめになった
「福良〜、暇だよ〜〜」
「仕事ないとこんなに余裕あったんだね」
「僕は暇で死にそうです。どうにかしてください」
「えぇ…それは俺に言われても…」
同じ柔軟剤の香りがふわっと香り、後ろから彼の温かい腕に抱かれる
「何、どうしたの?」
「…………別に、何ってことはない」
「………じゃあそういうことにしといてあげる」
彼は嘘が下手だ。動画の前ではペテン師キャラを演じる彼は、俺の前では小動物のように素直で、弱くて、目を離すとどこかに行ってしまいそうになる
彼が求めているのは「好きだ」とか「愛してる」なんて言葉ではなく、この一時の2人の幸せな時間だと、はっきりと分かった
あと29日で終わる世界を、怖くない人なんて存在しない。でも強がりな彼は絶対に怖いなんて口に出さないんだろうな、そんな貴方を、心底愛おしいと思った
「後ろからじゃなくて、ちゃんと前からギュッでしてよ」
「…してやらんことも無い」
「素直じゃないなあ」
ぎゅ、と強めに抱きしめられるから、「好きだよ」と伝えるかの様に俺も強く抱きしめ返す
ーーーー彼の伸ばす腕が少し、震えたのは見なかったことにしてあげようと思う、
今はもう少しこの温もりを感じていたい
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作者名:めろんぱん | 作成日時:2020年12月10日 2時