7メートル ページ7
・
今日の昼は購買でパンを買って、隣のクラスの友達と一緒に軽く済ませた。
去年同じクラスだったメンバーでだらだらとお喋りをして、そのうちに話題が恋バナに変わって、聞き手に徹していた私は「青春だねえ」なんてニコニコして、内心泣きそうになりながら相槌を打って、
「あ、A!」
この状況から助け出してくれる救世主が現れた、とほんの一瞬、思ってしまった。
「ごめん邪魔しちゃった?ならまた今度にするけど!」
悪気を微塵も含まない顔で謝りつつ、こちらへと歩みよってくる185センチの巨体。
溜息をつく私を横目に、友人たちはよってたかってニヤニヤしている。
恋バナに心を痛める乙女のもとに遠慮もなく近付いてくるこいつは、間違いなくモテない。
と、思いたいところだが、イケメンで運動神経抜群で高身長で何かとハイスペックな彼を好いてしまうと、ライバルが多いことも否めない。
「恋バナしてたんだよ〜」
友達の一人が、「ね〜っ」と私に視線を送ってくる。
つと顔を背けると、「何かさぐりなさいよ」とでも言いたげな目で軽く睨まれた。
「え、こいばな?!」
「……うん」
「何、お前好きな人いんの?!」
「……え」
顔面に「驚愕」と書いたような表情。
木兎の大声によって、何事かとざわつく教室。
相変わらずニヤニヤする友達。
私は、
「なに、悪い?」
「いや、別に悪くねぇけどよ……」
私は、どんな顔をしていたんだろうか。
これを聞いたって、きっと貴方は動じないのでしょうね。
貴方には、好きな人がいるんだもの。
「……頑張れよ!」
ほら。
ぽん、と肩を叩かれた。
きっと、ちゃんと応援してくれているんだと思う。
今顔を上げたら木兎は太陽みたいに笑っている、はずだ。
だから、見たくない。
顔を上げられない。
「うん……ありがと」
肩にのった手は大きくて、じんわりと温かい。
あまりにも木兎そのものみたいに思えたから、唇を噛んで目を瞑った。
「じゃあ、な」
ぬくもりが消えて、足音が遠ざかる。
ほんとうは、行かないでほしいのに。
あの熱を手に入れる誰かのことを思うと、胸の奥が疼いた。
「Aごめんね、私が恋バナだなんて言ったから……」
深呼吸を、一回。
「ううん、大丈夫」
顔を上げる。
「次移動だっけ?」
明るく、言う。
「教室で数学。何言ってんの?」
笑ってくれるから。
「あ、そうだっけ」
甘えて、何もなかったことにして、ごめんねと呟いた。
151人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ティラミルク(プロフ) - おこめさん» 返信が遅くなり申し訳ありません。夏目漱石のこころ、いいですよね(*'▽')読破済みの方と出会えてうれしいです!二回も高評価を……何とも嬉しいお言葉!かっこかわいい木兎さんをお届けできたようでなによりです。コメントありがとうございました。 (2020年6月26日 23時) (レス) id: 5de232f7c7 (このIDを非表示/違反報告)
おこめ(プロフ) - 本当にいい作品です!!夏目漱石のこころ、私も読んだことあります!!あああああああああもう木兎さんがカッコよすぎます!それでいて可愛いです。つい勢いで1番いい評価2回も押してしまいました笑 (2020年5月19日 9時) (レス) id: 4a878294b2 (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 百合郷さん» コメントありがとうございます(*^^*)こんなにお褒め頂けるなんて恐縮です!少し先の話になってしまいますが、そのうち番外編を追加する予定なので、よろしければその時も見て頂けると嬉しいです(*'▽')木兎さんのキャラがつかめていたようで良かったです(笑) (2019年12月16日 18時) (レス) id: edef360b1e (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 完結、お疲れ様でした!遅ればせながらも、最終話まで拝読させていただきました。題名と内容がとても考えられたもので、木兎さんの台詞が本当にそれっぽいなぁと、楽しませてもらいました。素敵な作品をありがとうございました! (2019年12月15日 23時) (レス) id: 5fdd484f6d (このIDを非表示/違反報告)
ティラミルク(プロフ) - 優麻さん» かっこいい木兎さんを感じていただけて良かったです!ありがとうございます! (2019年11月20日 22時) (レス) id: 9b0bde0b73 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ