セカンド

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仕事よりも、早く起きる。
藤ヶ谷さんの美容院に行く時は服が被らないようにいつも新調している。
藤ヶ谷さんはオシャレだから。
ダサい男だと思われないように、髪もワックスはつけないけど整える。
どうせシャンプーしてもらうけど。


藤ヶ谷さんの好みは聞き出す訳にはいかなくて(聞いても女性の好みの服装になってしまう)、藤ヶ谷さんが読んでいるという雑誌を見て研究して良さそうのを買っている。


今日も出る前に、玄関の下駄箱にある全身鏡で全身を確認する。
変じゃないかな。
どうせカットクロスで隠れるけど。


6月のはじめ。
どうしても、今日行かなければいけない理由もあった。


W杯。藤ヶ谷さんとよく話していた話題だった。
藤ヶ谷さんに一度話のノリで一緒にスポーツバーに行きましょうと誘われたことがあった。本当にリップサービスだとわかってるけど。でも、もし今日行けばその話が出来るかもしれない。


そう思って、直前の週に入れていた。


一緒に藤ヶ谷さんとスポーツバーに行けたらどんなに幸せだろう。


少しの妄想を頭の片隅においやり、玄関のドアを閉めた。
アパートから徒歩5分の距離。
こんなに近いのに、一度も偶然に会ったりはできなかった。


もし、店員として客としてではなく
普通に偶然会えたら、
その時は…
スマホの番号を直接渡せるのに。


そう思っているのに一度も偶然に会えずいた。



「いらっしゃいませ。北山さん」
「おはよーございます」



5分歩けば可愛らしい外観の建物が見えてくる。
ドアを開ければ受付には藤ヶ谷さん。
そして、隣にはいつもの可愛い小さな女性が立っていた。


藤ヶ谷さんと楽しそうに談笑をしていた。
そんな二人を邪魔するかのように、メンバーズカードを差し出す。



ごめんな、少しでいいから。
藤ヶ谷さんのこと貸して。


この女性スタッフは多分、藤ヶ谷さんのことが好きだと思う。

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