涙で光るガラス (ページ31)

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『海斗くん』

松倉「ん？」

『次、会えるとしたらいつ…？』

お風呂からあがってきて立ったままタオルで髪をわしゃわしゃしてる海斗くんは、少し考えたあと言いにくそうに口を開く。

松倉「んー、早くても来月末かな」

『来月末…』

今は月末。

私がもし異動する事になったら赴任は1ヶ月後って言ってたから、引っ越しとかのことを考えると、きっともう会えなくなる。

松倉「帰ってきてからも結構忙しいから、ゆっくりできる日は少ないかもしれない」

『…そっか』

きっと海斗くんが帰ってきた頃、私はこの街には居ない。

居たいけど、あの異動に拒否権はないから。

『ごめんね。忙しいのに図々しくいつ会えるかなんて聞いちゃって』

松倉「寂しい？」

寂しいんじゃない、悲しいの。

でも異動のことを話していない海斗くんに言えない。

言っても"そうなんだ"で済まされるかもしれないけど、それでも言えないよ。

『寂しくないよ』

彼女じゃないのに

海斗くんをこんなことで困らせちゃダメだってわかってるのに離れたくなくて

ソファーから立ち上がって海斗くんを抱きしめる。

海斗くんが着ているロンＴに顔を埋めた瞬間、髪を乾かしていたタオルがパサッと床に落ちる音がした。

松倉「ちょっ、俺髪濡れてるから」

『いい』

海斗くんの髪が頭に触れて少し冷たいけど、そんなことどうでも良くて

もう少しチカラを入れて腰にまわした手でロンＴをしわくちゃになるくらい握りしめる。

松倉「風邪ひいちゃうって」

『いいよ』

松倉「寂しくないの？」

『うん』

もう聞かないでよ。

聞かれたら、涙が出てくるから。

松倉「じゃあなんで泣いてんの」

『泣いてないもん』

松倉「泣いてるでしょ。それに、なんで抱きついてきたの？」

『…』

何も言えない私の頭を撫でてくる海斗くんの手はやっぱり優しくて、こんな状況でもやっぱり好きだと再確認しちゃう。

松倉「帰ってきたら、一番に会いに来るからさ」

お願いだから、これ以上好きにさせないでよ。

松倉「だから、それまで我慢な」

もう会えないから、我慢も何も無いよ。

…明日でお別れなんだから。