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いつもの動物園のような喧騒とは違い、涙混じりの声があちらこちらから聞こえてくる。
去年より少し長めのスカートが、桜の乗った風に揺れる。
今日は高校の卒業式。やっと学生生活から抜け出せると思うと、頑張ってよかったなと満足感に満ち溢れた。
「……それにしても、結局坂田先生の退職ってやっぱあれのせいなのかなぁ」
「いや、逆にあれ以外に理由ないっしょ!」
「あ〜…、女子生徒に手出したってやつ?」
「そーそー」
いつか、坂田先生を狙うと言っていた人たちだった。
その人たちは私を見た瞬間、気まずそうな顔をして去っていった。大方、その手を出された女子生徒が私だとでも思っているんだろう。まあ、違うけど。
だって先生、誰にも手を出してないし。
古びた鞄を持ち直し、人混みを抜けて校門へ急ぐ。あの大好きな赤い髪を見つけると、早くなる足はもう止まらない。
彼の名前をぐっと抑え、彼の背中まで走る。名前を呼んでしまうと、騒ぎになってしまうから。
「わっ!」
「うわっ?!」
バッと目を丸くして振り向いた彼─────坂田悠さんは私だと分かると、マスクをしててもわかるくらい笑顔になった。
悠さんは私をぎゅっと抱きしめると、愛でるように私の頭を撫でた。
「卒業おめでとう!」
「ん、ありがとう」
「もうこのまま役所直行しちゃおっか」
「悠さん気早すぎ」
でも、いいよ。
と抱きしめ返すと、ふわりと彼の匂いがする。大好きな大好きな、彼の匂い。
「じゃあ、行こっか。A」
「うん」
悠さんはするりと手を絡ませて、車へ向かう。
車へ近づくほどに、卒業したんだという実感が湧き上がってきて、何だか不思議な気持ちだ。
「悠さん、」
「ん?」
「愛してます」
「……ふふ、俺も。愛してるよ、A」
薄暗い車の中で、甘い甘い言葉。ミスマッチだけれど、心地良い。
これで、悠さんは…先生は私だけのもの。先生を退職させて、正解だったな。
そっと撫でた薬指は、冷たい指輪の感触がした。
-fin-
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かのこゆり - 今回もとても素敵でした…。設定もストーリーもよく考えられていて、尊敬します!同じ「スクール・ラブ」でも全然違って、読んでいて本当に楽しかったです。作者のみなさん、お疲れさまでした。最高の作品をありがとうございました! (2019年1月26日 17時) (レス) id: 1f2cd0f1d2 (このIDを非表示/違反報告)
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