【坂田】裏表一体保健室/sera ページ5
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生徒と挨拶をしながら廊下を歩き、ポスターがたくさん貼られた部屋に入る。すると、消毒の匂いがふわりと漂った。
棚に並べられた薬品を通り過ぎて、デスクに荷物を置くと扉がコンコンと鳴る。
「失礼しまーす。あ、先生今日は早いね」
「勝手に薬品触られたら困るからな〜、特にお前にね」
入ってきた彼女は無防備にベッド座り、薄めの黒タイツに包まれた脚を揺らす。扇情的なその行動に慣れてしまった自分が恐ろしい。
彼女は鞄からスマホを取り出し、ふんふふーんと鼻歌を歌いながらくつろいでいる。
近くにいるだけで幸せだから話しかけなくてもいい、とずいぶん昔に言われたため、自分の仕事にはげむ。
彼女は保健室登校の生徒だ。極稀に授業に出席することはあるが、基本的にはこの真っ白でつまらない部屋で過ごす。
「先生、勉強教えて」
「ん、ちょっと待ってな」
1時間目の授業開始のチャイムとともに、彼女は教科書とノート、筆箱を持って俺のもとにやって来る。
それがなんだか嬉しくて、徹夜で高校生の勉強をこの歳になってからまともに勉強したものだ。
このやる気を高校時代に出せていれば、大きな病院で働くことも叶ったかもしれないが、その夢も今はあまり気にしていない。
なぜなら、彼女───相原Aに出会えたからだ。
登校して、勉強を教えて、帰宅して、勉強して、また登校。
別にそこに下心はない。
相原も、かはしらないけど。
まぁ、そもそも生徒に手を出した時点でこの先の人生真っ暗だ。どこにいても噂となって俺の前に立ちはだかるだろう。
そんなのはごめんやわ。
「…………そういえば、昨日先生のこと狙うって言ってる子いた」
「…ほ〜ん、物好きもおるもんやな」
1時間目の授業終了のチャイムが鳴ると、相原はぐっと伸びをしながらそう言った。
何で学校やとモテるんやろなぁ。白衣効果が出てんのかな。という思考を展開しつつそう答えると、彼女は乱暴にノートを閉じた。
次の時間は化学だ。だが、まだ開始まで5分強ほどある。
「……先生は、愛想が良くて可愛くて、華奢な子が好き…?」
「……んー、例えば相原とかってこと?」
「…、違うし。私、愛想良くないし」
パイプ椅子の背もたれに体重をかけ、視線を天井に向ける相原。
次は化学やな。教科書どこやっけ。
先生以外には、という甘い囁きを一枚上手だった理性が静かに掻き消した。
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かのこゆり - 今回もとても素敵でした…。設定もストーリーもよく考えられていて、尊敬します!同じ「スクール・ラブ」でも全然違って、読んでいて本当に楽しかったです。作者のみなさん、お疲れさまでした。最高の作品をありがとうございました! (2019年1月26日 17時) (レス) id: 1f2cd0f1d2 (このIDを非表示/違反報告)
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