9話 ページ9
それを伝えられたのは、眠気も来る昼下がりの時だった。
四日目の日の午後四時半。平たい円柱状の氷を手動のかき氷機でがりがりと砕き、それしかなかったらしいいちごのシロップを掛けて食べていた際のことである。あっ、と大きく声を上げた彼女が驚いた顔のまま俺を見たのだ。無論何を言わんとしているのかなどわかり得るはずもなく、ただ首を傾げたのだが。
「タツヤくん、今日、お祭りやで……!」
「お祭り……?この辺りでってこと?」
「そない立派なもんとちゃうねんけど、神社の近くに夜店いっぱい出してね、皆で遊ぶの!やからさ、」
「一緒に行こうか、Aちゃん」
「うん!」
「そのお祭りって何時からなんだい?」
「んとねー六時半くらい」
じゃあもう少しゆっくりできるね。そう目を細めた俺に彼女はにっこりと可憐な笑顔をお返しする。食べ進めるにつれて氷と共に無くなっていったシロップを追加しつつ食べ終わり、彼女の分のお皿も纏めて軽く洗っておいた。
至極楽しそうな表情の彼女はありがとう、の言葉に加えてこっち来て、と言って俺の手を引いていく。行先も訳も告げずに連れられて着いた先の和室の部屋で、彼女は俺を流し目に見ながら問いかけた。
「タツヤくん、和服嫌いやったりする?」
「いや特には。……それを訊くってことはつまり、今日着るってことなのかな」
「何て言うんやっけこういう時……ああそや、ご明察!甚兵衛と浴衣、どっちが良い?」
「うーん、それじゃあ浴衣にしようかな」
「りょーかいです」
薄茶色の和箪笥から引き出された紺の浴衣と茶の帯。着付けの経験はあるし一人で何とかなるだろう。続いて彼女は白地の浴衣を取り出した。桃色で何かの花が描かれたそれは見るからに女物であり、次に黄色と赤の帯をそれぞれ引っ張り出す。それらを持ち上げた彼女は自分と帯を見比べるようにして視線を動かした後、こくりと頷いて黄の帯を仕舞った。
「六時過ぎには出たいから、そん時には着替えとってな」
「ああ、荷物は?」
「んーお金と携帯は用意しとってね」
「わかった、それじゃあまた後で」
「うん、また!」
壁時計が本日二度目の六時を告げる。外は徐々に深みを増し、遠くからは音楽が聞こえてきた。そういえば今までもこのくらいの時間になれば鳴っていたっけと思考に耽りかけた刹那のことである。タツヤくん、と自分を呼ぶ鈴の音のような声色。立ち上がって襖を開けば、待つのは控えめながらも可愛らしさを放つ和装の少女だった。
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漣(プロフ) - 描きピーさん» 描きピーちゃんコメントありがとう〜!私にとっての「夏」という世界観を最大限綴れるように頑張ります……! (2019年8月25日 22時) (レス) id: 0a5e6cfb08 (このIDを非表示/違反報告)
描きピー(プロフ) - 漣ちゃん、新作おめでとうございます!漣ちゃんの執筆する「夏」をテーマにした物語は、綺麗な言葉と表現が巧みに使われていて読者の気持ちを涼ませてくれる所が凄く好きです!これからも応援しております! (2019年8月25日 21時) (レス) id: fe17964061 (このIDを非表示/違反報告)
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