15話 ページ15
もうそろそろ帰ろうか。そう呟いて、海の家の店員さんがサービスでくれたアイスキャンディを齧る。つまらない水掛け合いをしていた為に髪は潮水に濡れていた。無いよりはマシだと鞄から引っ張り出したタオルを彼女に渡す。乾けば塩が引っ付いていることであろうけれど。うん、と彼女は海の方向を見詰めながら肯定を返した。それにどのような意味合いが込められているのかは生憎察することは出来なかったが、何となく感傷に浸っていることだけは理解できた。
「かなり傾いてきとんね、お天道様」
「ああ、日も少し短くなったかな」
「もう夏もお終いなんやなぁ」
「……君と会うのも最後、か」
ぼそりと聞こえないように呟いた言葉は聞かれてしまっただろうか。特に何の反応も返さない彼女に聞かれてないことを願いつつ、行きと同じように潮の香のするアスファルトを自転車を漕いで駆けていく。向かう先は二日目に訪れた神社だった。帰りの挨拶を伝えてから駅に向かうのだ。日頃から鍛えてる身体では彼女の体重が乗った自転車程度大して辛くもなく、言うとすればお腹に回った手がたまに緩むことだけが少々不安だった。
双方何も喋らない沈黙の時間。風と遠い波の音が聴こえるだけの空間。しかしながらそれは全く以て心地の悪いものではなく、むしろ息がしやすいような気さえ感じられた。
「……あともうちょっとで神社だよ」
「何も起こらさんでくれたん感謝せんとね！」
「随分と水に縁があったけどあれも祝福なのかもね」
「ふふ、どやろ？珍しいお客人やから遊んではっただけなんとちゃうかな」
「結構神様、お茶目なんだ」
「直接会うたことはあらへんけどね。けどまあ絶対いはるで」
「……羨ましいな、そういった神様が身近なのは」
数日前に歩いた石造りの階段。前回と異なるのは二人並んでのんびり歩いていることだけだろう。中央は神様の通り道だから端っこに寄って、石畳を一歩一歩。手水舎を抜けて鳥居を潜る。二人一緒に大きな鈴を鳴らし、俺は五日間の平穏と彼女との出会いへの感謝を伝えた。きっと伝わったはずだと信じていた。
「お願い事、終わった？」
「終わったよ」
「そんなら駅向かおか！……ああでも、一つだけ」
「Aちゃん……？忘れ物？」
「そう、忘れもん」
ふと指を摘ままれた。急に引き上げられた小指はされるがままに、指切りげんまんの形へと運ばれる。
「私を思い出した時はまた、会いに来てね」
「……ああ、絶対に」
胸に刻んで、忘れないように、約束。
続く (更新停止中)
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漣(プロフ) - 描きピーさん» 描きピーちゃんコメントありがとう〜！私にとっての「夏」という世界観を最大限綴れるように頑張ります……！ (2019年8月25日 22時) (
レス) id: 0a5e6cfb08 (このIDを非表示/違反報告)
描きピー(プロフ) - 漣ちゃん、新作おめでとうございます!漣ちゃんの執筆する「夏」をテーマにした物語は、綺麗な言葉と表現が巧みに使われていて読者の気持ちを涼ませてくれる所が凄く好きです!これからも応援しております! (2019年8月25日 21時) (レス) id: fe17964061 (このIDを非表示/違反報告)
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