2話 ページ2
終点です、とアナウンスが聞こえた。時間を確認すればもう四時前になっていて、そろそろどこかで休むべきかと思い始める。まあ一旦降りてから考えればいい。気になる駅名があればまた乗り継げば良い話なのだし、と広げていた荷物を仕舞っていく。
知らない地名。知らない景色。知らない空気。足を停めた電車から一歩踏み出せば、そこは全く知るはずもない世界だった。直感だけで来たのだから知っている場所に辿り着く方が可笑しくはあるのだが。
「……雨？」
ぽつり、ぴちゃり。見上げれば太陽を隠した濃い灰色の雲と、そこから滴る透明の水滴。それは瞬く間にどしゃ降りへと変わっていき、俺は少しの逡巡の後駅の椅子に座り込む。時折入ってくる雨粒が服を濡らした。先程まで乗っていた二両編成の鈍行が回送になってどこかへ行くのを見送り、俺はぐるりと辺りを見渡した。
遠くには雲の灰色が反射した海と青みがかった山がある。少し高台にあるらしいこの駅からは回りが見下ろしやすくなっているようで、周辺には田んぼとあまり新しそうではない家々が連なっていた。そして、自分の近くには同じく雨止み待ちの住民と思わしき人が数人。
雨が止めばここで泊まる場所でも探そう、と耽り掛けた思考を途切れさせたのは聞き覚えのない声だった。
「ねえ、もしかしてサッカーの人？」
「え、あ……はい、そうです」
「やっぱり！見覚えあったんよー！」
訛った特徴的な喋り方と身軽な格好。間違いなく付近に住んでいる人なのだろう。年端もいかない、というかそう変わらないであろう年齢の少女は嬉しそうに笑いながら話を続ける。
「こんな辺鄙なとこ来てどないしたん？」
「いえ、少し息抜きにと電車に乗っていたらここに着きまして」
「そうなん？なんか納得やわ、来たいと思って来る人なんておらんもん」
「でも綺麗ですよ、ここは。空気も澄んでますし」
「晴れとったらもうちょいマシなんやけどなー……今日はどこ泊まるん？」
「それが決まってなくて……」
「やったらおいで、私のとこ！ご飯もご馳走するし」
太陽の如くに弾けた笑みで誘いかける少女から打算的なものは感じられない。正しく渡りに船、助かったとしか言いようがない現実である。しかしながらどこか訝ってしまうのもまた事実であり。だが、その悩みもそう長くは続かなかった。
「この雨、今晩中降るで？私はもう帰るとこやから行くけど……どうします？」
「……お世話になってもいいですか」
「勿論やで！」
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漣(プロフ) - 描きピーさん» 描きピーちゃんコメントありがとう〜！私にとっての「夏」という世界観を最大限綴れるように頑張ります……！ (2019年8月25日 22時) (
レス) id: 0a5e6cfb08 (このIDを非表示/違反報告)
描きピー(プロフ) - 漣ちゃん、新作おめでとうございます!漣ちゃんの執筆する「夏」をテーマにした物語は、綺麗な言葉と表現が巧みに使われていて読者の気持ちを涼ませてくれる所が凄く好きです!これからも応援しております! (2019年8月25日 21時) (レス) id: fe17964061 (このIDを非表示/違反報告)
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