episode4. ページ6
「大将〜、お会計〜」
最早何杯目なのか分からないビールを飲み干して、私はいつものように、カウンターの奥にいるであろう大将に声をかけた。
けど、まるで返事がなくて、ん? と思った後に気がついた。
あ、今日はカウンターに座ってないんだった。
仕方なく荷物をまとめて立ち上がる。お酒が回っていたのか、足元がふらふらしてしまい、思わずテーブルに手をついてしまった。
意識はものすごくクリアで、酔っている訳ではないと思っていたけど、これはちょっとまずいかも。
しばらく手をついたまま俯いていると、ふと声が聞こえた。
「大丈夫……ですか?」
何度も何度も聞いた声。画面越しに応援していた彼の声を、聞き間違えるはずもなく。
「……キヨ?」
思わず顔を上げてしまう。その反動で、また少し気持ち悪くなったけど、それを吹っ飛ばしてしまうくらいに、目の前の長身男子は眩しかった。
「えっ、あっ、そうっすけど……」
急に呼ばれたからか、動揺して自ら身バレするキヨ。
私はお酒のせいか、その姿に笑ってしまった。
「そうっすけどって……、あはは!」
お腹を抱えて笑っていると、目の前のキヨは、少し拗ねたような表情をした。
「……心配して損したわ」
「あはは! ありがとうございます、大丈夫です」
そのまましばらく笑っていると、キヨは更に不貞腐れる。
「大丈夫ならよかったっす……、ガッチさんの知り合いっぽかったから気になって…」
「え?」
「っ……! 何でもねぇ! 気ぃつけて帰れよ!」
そう言って席に戻っていく彼は、私の知っているいつもの彼だった。
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作者名:咲希さん | 作成日時:2020年12月22日 15時