10話 ページ10
「…一青ちゃん。僕今とっても重大なことに気が付いたよ」
『どうしたの士郎君、そんな世界の終わりに直面したような顔をして…』
ついに選考試合当日。人数確認でAチームの集う体育館にいた水城は、青いユニフォームに身を包んだ吹雪に深刻な表情で話しかけられる。
「できないんだよ…」
『何が?』
「ハイタッチが…」
顔に影を落としながら言う吹雪に水城は一気に脱力した。確かに水城は今回相手チームどころかフィールド内にもいないが。それにしても吹雪、落ち込んでいながらも点を取る気満々である。
「一青ちゃんのいるベンチまで行くか…?」
『手間だよ…。ハイタッチそんなに重要?』
「なんか、シュート決められたんだなあって実感が湧く…」
『そうだったのか…』
シュートを決めた後の水城とのハイタッチは吹雪の中で恒例となっていたらしい。だからこそ、他の人では駄目だった。
『……そうだ、じゃあもう今ハイタッチしとこう』
「今?」
『なんだろう、絶対決めるぞーっていう決意表明?あと気合入れる感じで…。あ、でも重荷になっちゃうかな、どうしよう』
「…ううん、今!今やろう!!」
目を閉じ腕を組んで真剣に考えだした吹雪に水城が提案する。重圧を感じてしまうかと心配したが吹雪の表情はみるみる明るくなっていき、嬉しそうに水城に詰め寄って笑った。
「なになに?何してるの??」
「シュートを決めてもハイタッチしに行けないから先にやってるんだ」
「ああ、あれか。…えっ俺もやりたいな」
いえーい!といかにもシュートを決めたノリでハイタッチを交わした吹雪と水城。すると声につられて基山がやってきて、吹雪の説明に納得すると同時に自分もやりたいと手を上げる。雷門の試合でたびたび目にしていたそれが少し羨ましかったらしい。
「準備はいいか」
基山と水城がハイタッチした直後、響木がやってきて館内を見回す。駆け寄った水城が『AチームBチーム、どちらも全員います』とバインダーを手渡すと響木は頷き、グラウンドに出ていくよう告げた。
「世界と戦う…。そのためにもこの試合、全力でぶつかる…!」
「新しい自分、新しい仲間…。僕は必ず世界に行く…!」
「世界中の強い奴らが俺たちを待っている…。だから俺は、ここで立ち止まってはいられない…!」
それぞれが似て非なる想いを胸に、世界を目指す。多くの観衆に見守られる中、円堂率いるAチーム 対 鬼道率いるBチームの、日本代表選考試合が始まったのだった。
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作者名：不二市
| 作成日時：2018年7月6日 15時
