27話 ページ27
『瞳子監督、木暮君は勧誘しないんですか?』
「俺も、あいつは戦力になると思うんです!」
「彼が自分の意思で私たちと行くことを望むのならね」
話が一段落したところで水城が尋ねると、全員の救出を完了した円堂も同意して言うが瞳子はそう返す。こちらからは勧誘しないが、行きたいと言うのなら連れていくという考えらしい。先程の試合を見て瞳子も戦力になるとは思ったようだ。
『ディフェンスが増えるんだね』
「今よりもっと強力な守備になるぜ!」
「来てくれたら、な」
そう話す水城、円堂、鬼道の3人の傍ら、吹雪と風丸の表情は曇っていた。
「私も親、いないから」
『…!』
それから時間が経過しその日の夕方。昨日と同じ橙色の夕焼けだが気分が違うだけで見え方が全く異なる。夕飯前の散歩に、とあてもなく歩いていた水城の耳に春奈の沈んだ声が入ってきて、蹴球道場の前で思わず足を止めた。
結局動くこともできずに最後まで話を聞いてしまう。春奈は小さい頃に両親を事故で亡くし、木暮は捨てられたそう。境遇は違えどどちらも辛いことに変わりはなく、両親が健在の水城には、どうしても気持ちを考えることはできなかった。
「きゃああああああっ!!!!」
そんな悲愴感漂う雰囲気は春奈の悲鳴によって掻き消される。何をされたのか蹴球道場を逃げるように出ていった。出入口付近の壁に背中を預け体操座りをしていた水城にも気付かなかったということは、それだけ切羽詰まっていたのか。何事だと水城が春奈の小さくなっていく背中を見て、蹴球道場を見る。蛙を頭に乗せた木暮と目が合った。
「おっ、まえは…!」
『お疲れ様木暮君』
水城と目が合った瞬間たじろぐ木暮。面白いことに蛙も同じような表情をしていた。
『ちゃんと、信頼に応えてくれたね』
「!!」
『そこから信用は生まれるんだよ木暮君。君がイナズマキャラバンに参加するのかは任せるけど、一つだけ。私は本当に最近に入った新参者だけど、皆信用と信頼ひっくるめて信じられる、良い人たちばかりだからね』
それだけ言って腰を上げキャラバンに戻ろうと去っていく水城。試合前のときのように息を呑んだ木暮だったが今回は復活が早く、橙色に染まった白い髪を揺らすその背中に「言い逃げすんなよお────っ!!!!」と力の限り叫んだ。
666人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:不二市 | 作成日時:2017年9月20日 9時