初恋 #1 ページ3
仮宿で本を読んでいると、ふいにAが話しかけてきた。
「ねぇマチ、裁縫って得意？ これってどうやって縫えばいいのかな？」
目には薄ら涙さえ見え、手には布切れを持ち、神妙な面持ちであたしに問いかけてくるA。
「裁縫？ 出来なくはないけど、そんなにボロボロだったらあたしでも難しいかも……ってこの程度も出来ないの？！」
Aが手に持っている布切れを手に取ると、五センチ四方の破れが少しだけ。二百年生きていても裁縫一つろくに出来ないなんて、と呆れながら布切れを見ると、あることに気付く。
「これ、シャルの服？」
「そうだよ」
「なんでAが？」
「なんでだろ」
「頼まれたの？」
「頼まれてないよ」
あたしの質問に淡々と答えるが、最後の質問には目をまん丸くして否定する。
「じゃあなんでAが？」
「シャルが『服破れちゃったんだよね』って困ってたから『私が直そうか？』って聞いたら『うん、お願い』って」
「それで出来もしないのに引き受けたの？」
「うーん……出来ると思ったんだけどね」
「その指は？」
うっかり溜息が出てしまいふと視線を下に逸らすと、か細い指にはあちこちに絆創膏が貼ってあるのが目に入る。
「えへへ、縫ってる途中に自分の指刺しちゃって……」
そんなあたしの視線に気付いた様に笑いながら手を後ろに隠すけど、しっかりこの目で見てしまった。
「どうやったらこの大きさ縫うのにそんなに怪我出来るのさ」
「裁縫なんてしないから……だって普通破れたら新しいの買うでしょ？」
自信満々に答えるAだけど、だったらなんでそんなこと引き受け……喉元まで言葉が出かかったところでハッとする。
「好きなの？」
「裁縫？ 好きじゃないよ、別に」
「シャルのことだよ。好きなの？」
「な、なんでそうなるの！？ 私はただシャルが困ってたから……」
そう言って顔を真っ赤にして否定しているけど説得力に欠ける。なんでこうも頑なに認めないのか、他の団員も不思議に思ってるはずだ。
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作者名：咲月 | 作成日時：2020年1月8日 0時
