私の心は燃えている #6 ページ20
私に抱き締め返せる勇気があれば、きっと今よりもっと幸せになれるんだろう。……なのに失うことばかり考えてしまう。
「シャル、どうしたの?」
抱き締め返しそうな手をぐっと堪え、平静を装いながらシャルへ問うが返答はない。
私もそれ以上は何も言わず、黙ってシャルの腕に収まる。
どれだけの時間をそうして過ごしたのか、沈黙を破る様にドアを叩く音が響く。
「ご予約されていましたマッサージに伺いました」
そう女性の声が聞こえるがシャルは一向に腕を緩める気配はない。
「シャル、マッサージだよ」
「後五秒だけ、このままでいて……」
消え入りそうなほど小さな声でシャルはそう呟き、私は返事をすることも出来ずただ時間が過ぎるのを待つしか出来なかった。
五、四、三、二、一……
「ありがとう」
短い様で長い五秒が過ぎるとシャルはそう言い、私を離しドアへと向かって行った。マッサージをしてくれる女性を笑顔で招き入れる。
今のは一体何だったんだろう、そう思ったけどきっと聞いても答えてくれないだろうな。
「じゃあよろしく、終わったら連絡して」
「えっ? シャルどこに……」
「居てもいいの? 服脱いでしてもらうマッサージだけど」
「えっ?」
「オイルマッサージでのご予約となっておりますので、お召し物は脱いでいただくことになります」
「な……っ」
「ね? だから、終わったら連絡してよ。ホテルのラウンジで待ってるから。調べ物もしたいし俺のことは気にしなくていいからさ」
そう言うと私の返事も聞かずに外へ出て行ったシャル。取り残された私は一人茫然と見送るしか出来なかった。
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作者名:咲月 | 作成日時:2020年1月8日 0時