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「なぁ、廉?」
そこから数日経って、
ご両親から正式に、新薬はしない、と言われた。
「…なに?」
息子の意見を尊重してやりたいんです。
きっとご両親にも廉は、
同じような態度をとってるんやろな。
俺も、わかりました、としか言いようがなかった。
これからも今まで通りの治療法、あとは、
ただ弱っていくのを待つだけ。
「…忘れもんしなや?」
だから、一時入院も今日で終わり。
もうすぐお母さんが退院手続きをして、
荷物を片付けにきてくれる。
帰宅したら、1日だけ自宅療養してもらって、
そっからはまた学校や、ってワクワクしてた。
「なんなん、のんちゃん先生暗いやん。笑
あ、俺が退院するからさみしいんやろ?笑」
そして、きっともう新薬は使わないだろう。
もう一回提案したとしても。
さらに新しい治療法が見つかったとしても。
隠しきれなかった寂しさは、たぶんそのせい、やと思う。
「…あんさぁ、廉、」
だから、退院に嬉しそうな廉には申し訳ないけど、
俺は、思わず話し始めてしまっていた。
「先生の、お兄ちゃんの話、してもええ?」
「…おにいちゃん?」
大毅のこと。
生きる方法がなかったあの時代に、
懸命に生きようとしてた誇らしい姿のことを。
「先生のお兄ちゃんはな? 廉と同じ病気やってん。」
「え、なにそれ初耳。笑」
「そりゃそうや、今初めて言うてんから。笑」
初めは高めのテンションもあってか、
いちいち突っ込んできたり、ちょっとふざけたり。
けど、話が深まれば深まるほど、
廉も聞き入ってくれてるのがわかった。
聴覚神経を集中させて、俺の口元ぐっと見つめて、
それでも聞こえにくいのか、
もう一回って指まで立て始めて。
完全に時間とか忘れてた。
俺も話すことにのめり込んでた。
「ほんで、お兄ちゃん、20歳なれたん?」
「あぁ…んーん、間に合わんかった。」
「えっ…」
「でも、お祝いはしたよ? おめでとうって。
俺以外みんなお酒飲んでさ。 羨ましかったなぁ。」
結局、病気になってから4年半も生きられへんかった。
発症してからやったら…今の廉と同じぐらいかな。
そう言うと、廉は完全に言葉を失ってた。
呆然と、どこか一点を見つめて。
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のん(プロフ) - この作品大好きです。素敵な作品をありがとうございます。表現素晴らしいです。涙が止まりません。一瞬でファンになりました。 (2020年7月25日 2時) (レス) id: 56343318d5 (このIDを非表示/違反報告)
ごま - 声出して泣くくらい本当に号泣です。素敵な作品に出会えてよかったです!ありがとうございます。 (2020年5月10日 1時) (レス) id: d07563048d (このIDを非表示/違反報告)
いっちゃん(プロフ) - 初めまして!久々に小説で号泣しました。友人に勧めたくなるくらい素晴らしいお話に出逢いました。ありがとうございました。 (2020年5月6日 17時) (レス) id: a6f24fa91f (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - はじめまして、知り合いに勧められて一気に読みました。途中から涙が止まらなくて、親には心配されました笑多分何回もまた読みに来ると思います、最高の作品でした。作者さんの他の作品も読んでみますね。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年5月5日 9時) (レス) id: f84ebdac68 (このIDを非表示/違反報告)
たぁ(プロフ) - こんにちは。もう一度読みたくなってきちゃいました笑 ほんとにこの作品素晴らしいです>_< 何度涙を流したことか…最高の作品をありがとうございます。 (2020年5月4日 17時) (レス) id: 4b1a527b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:茉都香 x他1人 | 作成日時:2017年1月4日 18時