53. ページ3
.
ついに、
何事にも目が離せなくなってきたのは、
今年もまた、
夏の甲子園が始まろうとしている時でした。
病気がわかって丸3年。
4年目に突入した、夏のこと。
「…ありがとうございました、」
定期検査を受けた時、
大毅の握力はもうほぼ0に近く、
聴力は90デシベルまで聞こえなくなってました。
90デシベルって、機械がいっぱいある、
工場の中みたいな音の大きさですよ？
さすがにびっくりしましたね。
あんた、そんなに聞こえへんの？って。
補聴器をつけたらいいんじゃないんですか！？
アホな私は先生に言いました。
でも、この病気、補聴器が使えないんです。
どうしても、頭痛と目眩に繋がってしまって。
やっかいやなぁ、と思いました。
今までに補聴器を使えた例がなく、
もちろん大毅に試してもダメ。
1分もつけてられませんでした。
「…え？ ここ、病院、やよ？ いつもの、」
あとは、少しずつ記憶障害が出てきました。
それを知ったのは、先生に言われてから。
身をもって感じたのは、
大毅がいつもの病院を忘れてしまった時でした。
「大丈夫大丈夫。 ね？ ほら、おかん、おるから。」
自分がどこにいるかわからなくなって、
どこ？って言うように不安そうに見つめてくるんです。
もうね、なんとも言えない気持ちでした。
明日になったら、飛び起きて、
走ってリビングまで来てくれないかな、
それでなくても、なにか新薬が開発されてないかな。
毎晩、大毅の寝顔を見るたびそう考えるばかりで。
「…のんちゃん？ 大丈夫？」
そんな大毅を見てか、
突然、望が体調を崩しました。
暑い夏に負けないぐらい、
すこーん、と熱が上がっちゃって。
その年の甲子園にも、
2年生の望の出番はなくてよかったです。
出場できなかった上に、
不穏な空気が流れている我が家では、
みんなで応援しに行こう！っていう空気にさえ、
ならなかったと思いますから。
「…ごめんっ、おかん、にいちゃんで大変やのに、」
「なにを謝んの？笑 ってか、おかんがいつ、
だいきで大変やってゆうてん！笑」
望の様子を見にいって、手を洗ってうがいをして、
大毅の様子を見に行く。
その年はそんな夏を超え、
大毅は19歳になりました。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2132人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
のん(プロフ) - この作品大好きです。素敵な作品をありがとうございます。表現素晴らしいです。涙が止まりません。一瞬でファンになりました。 (2020年7月25日 2時) (
レス) id: 56343318d5 (このIDを非表示/違反報告)
ごま - 声出して泣くくらい本当に号泣です。素敵な作品に出会えてよかったです!ありがとうございます。 (2020年5月10日 1時) (レス) id: d07563048d (このIDを非表示/違反報告)
いっちゃん(プロフ) - 初めまして！久々に小説で号泣しました。友人に勧めたくなるくらい素晴らしいお話に出逢いました。ありがとうございました。 (2020年5月6日 17時) (レス) id: a6f24fa91f (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - はじめまして、知り合いに勧められて一気に読みました。途中から涙が止まらなくて、親には心配されました笑多分何回もまた読みに来ると思います、最高の作品でした。作者さんの他の作品も読んでみますね。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年5月5日 9時) (レス) id: f84ebdac68 (このIDを非表示/違反報告)
たぁ(プロフ) - こんにちは。もう一度読みたくなってきちゃいました笑 ほんとにこの作品素晴らしいです>_< 何度涙を流したことか…最高の作品をありがとうございます。 (2020年5月4日 17時) (レス) id: 4b1a527b81 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：茉都香 x他1人 | 作成日時：2017年1月4日 18時
