Blood Ocular (ページ5)

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五話ページ5

『八年前、私はとある少女の両親を殺した。
女の首を絞めてから男を包丁で刺し殺した後、私は事切れた男の死体に血塗れの包丁を握らせて罪を被せ、その場を後にした。あれは心中などではない、全て私がやったことだ。彼女を誰にも奪われたくなかった。だから誰かの手に渡るくらいならと、気がつけばこの手で命を奪っていた。失策だったのは偶然目を覚ましてリビングに降りてきた男に見つかったことだった。私はあくまで女だけを殺すつもりだったのに、口封じに彼まで殺さなければいけなくなったのは非常に残念だ。
ところでその家には子供がいた。当時まだ七歳の娘が。ニュースでこう報道されただろう？「夫婦の死体は見つかったものの、小学一年生の女子児童が行方不明」だと。あの場を去ったのは私一人だけではない。その娘も一緒だよ。勘違いしないでほしいのは決して誘拐したわけではないことだ。ありえない話になるが聞いてくれ。父親同様リビングに降りてきたあの子は一分くらい死体を見つめていた。それはもう石のように身動ぎ一つせずにね。それで顔を上げて私を見てからの第一声が「パパ、どうしたの？」だった。最初は訳が分からなかったよ。どちらの意味にも取れるからね。てっきり床に転がって死んでいる父親を寝ているのと勘違いして「(こんなところで寝て)どうしたの？」ということだと思ってた。だがそれにしても見ず知らずの男が居るのには何も思わないのかとまで考えた時、あの子は近づいて突然私の手を握ってこう言った。「ねえパパ、眠れないの？」ってね。あまり驚いたものだから死体を指差して「床とソファにあるそれは何だか分かるかい？」なんて馬鹿な質問をしてしまったよ。そうしたら何て返したと思う？何のことだか分からないと言いたげな顔で「何もないよ？」と。同じような人間を相手してたから分かる。あの子は両親が死んだことをなかったことにしたんだ。そうしなければ壊れてしまうから。そして私を父親だと思っているのだと。
そんなわけであの子は私の娘だということにしている。一つだけ心残りだったのはあの女の両目を奪っておかなかったことだ。あれほど魅力的な目を持った人間は他にはいない。死んでも彼女に忘れられたくなかった。だからあの目に映っていたかった。死ぬ時は彼女に最期を看取ってほしいとまで思っていた。だが私は彼女を殺してしまった。娘のことは心配するな。もう探す必要もない。

教えてほしい。
果たして人はどこまで狂えるのか』

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