Get Back【ホルマジオ】 ページ42
きっかけは本当に些細なことだった。
普段なら笑って聞き流せるようなことだったし、今思ってもどうして自分があれほど腹を立てたのかは全く分からない。だが、それが今となってはもうどうしようもないことになってしまった。家を出て行ったあいつは未だに帰らない。
「…」
つい数日前まで、一緒にバカ映画を見て二人でゲラゲラ笑っていたソファに座って、缶ビールを開けた。いつもなら少し狭いくらいだったそのスペースが、一人では随分と大きいんだと気が付く。流し込んだ安物の缶ビールも、こんなにまずかったかと首を傾げた。
「おい、大丈夫なのかよ」
普段は心配の言葉ひとつかけてこないようなイルーゾォが、鏡の向こうからこちらを見つめて眉をひそめている。大丈夫だっつーの、そう答える俺の顔は、自分でも情けないほどわかりやすくやつれていた。あいつがいなくなってたった一週間。たったそれだけの時間でしかないのに、まるで10年分は老け込んだかのようだ。
「…ちょっと眠れてねェだけだ」
「お前が?ああ、Aがいなくなっ─」
「うるせぇ」
洗面所に置いていた灰皿を振り上げると、イルーゾォは「よせよせ」と叫んだ。その声ではっとする。
(何をこんなに苛立ってる?こいつはただ俺を心配してただけじゃねェか。)
普段ならとんでくるバカげたジョークも、いらつく皮肉もないのだ。こんなに腹が立つ理由がない。
(俺は、マジにキてんじゃねェのか…?)
そんなバカな、と笑おうとしたが、鏡の向こうの俺は引き攣った顔をしただけだった。
(おいおい、冗談じゃねェぞ)
女との別れ話はこれが初めてじゃない。あいつよりひどい別れ方をした奴なんて両手の指でも足りないほどの数がいる。
それでも、自分がこんな風になったことは一度もない。
何をしてても笑えるくらい面白くない、何を食ってても冗談かと思うほど不味い。ベッドが広くなってから、夜中に何度も目が覚める。暗殺チームの初仕事の時も、初めて人をやっちまった時も、ここまで酷くはなかった。
(これじゃあ、まるで俺が本気であいつを─)
そこまで思いかけた瞬間、頭の中に浮かんだのはあいつとの思い出だった。猫を見て顔をほころばせるあいつの顔や、あいつの笑い声、そして、最後に見た泣き顔。
「ああ…クソ…」
こんなことを思う日が来るとは思わなかった。らしくない、と笑おうとした喉からは、嗚咽ばかりがこみ上げる。
「戻ってきてくれよ、A…」
誰が為に【音石明】リクエスト・チリペッパーさん→←旨い【ナランチャ】リクエスト・元チョコプリンの子さん
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りと(プロフ) - ∴さて、どこへ行こうか。さん» リクエストありがとうございます!返品が遅くなってしまい、大変申し訳ありません<(_ _)>リクエストの方、承りました!ここではお話がいっぱいになってしまいましたので、続編の方で取り扱わせて頂きたいと思います(^^♪ (2021年8月23日 23時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - ?さん» ?さん、リクエストへの返信が大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした<(_ _)>リクエスト承りました!ここではお話がいっぱいになってしまいましたので、続編の方で書かせていただきますヽ(*^^*)ノ (2021年8月12日 0時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - モカさん» 返信がとても遅くなってしまい、申し訳ありません!リクエスト、承りました! (2021年7月19日 22時) (レス) id: b238753ec9 (このIDを非表示/違反報告)
∴さて、どこへ行こうか。 - リクエストです。普段甘えない花京院典明の恋人(夢主)が甘える、という内容なのですがよろしいでしょうか?出来れば生存ifを希望します… (2020年11月6日 19時) (レス) id: a195df0bb5 (このIDを非表示/違反報告)
?(プロフ) - リクエなのですが、露伴先生と病弱な夢主が恋人関係なのですがその病弱な夢主が意外にも悪徳的なスタンドを持っている事を知って何があったのかと聞くと泣きながら過去にあった親からの虐.待などを夢主が語っていき、その日は思う存分甘えされるみたいなのをください! (2020年3月27日 16時) (レス) id: d243ef7454 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りと | 作成日時:2019年1月9日 21時