煙草【サンジ】 ページ38
あなたはいたずら好きな人だ。
「あら、タバコ」
人気のない夜の甲板だった。背後からかけられた声に、俺は思わず咥えていた煙草を落としそうになる。
「Aさん…!?」
ちょっと上ずってしまった声に、Aさんはおかしそうにちょっと笑った。
「ゆっくり吸ってるところ、初めて見た気がするわ」
「ああ…嫌だった?」
「臭うかい?」なんて言いながら、火を消そうとした俺の手にAさんの細い指が絡む。声を上げるよりも早く、Aさんは俺の手から煙草を奪ってしまった。
「あなた、私の前ですぐにタバコを消しちゃうでしょ?ずっと気になってたの」
「ああ、いや……まあ、そうだね」
俺はどぎまぎしながらAさんを見ていた。
Aさんの前ですぐに消してしまうのは、もし煙草が原因で嫌われたらと思うと怖かったからだ。普段から吸ってるから服に匂いが染みついているのはわかっているが、彼女の前で吸うのは抵抗があった。
そんな俺の努力と我慢もむなしく、俺はこうしてAさんに煙草を吸っているところを見られてしまったわけだが。
「ねぇ、これってどんな味なの?」
そんな俺の気持ちなど知らないように、Aさんは俺を見上げる。
「…Aさん、返してくれ。火傷されたら俺は後悔のあまり死んじまうかも」
そっと手を伸ばした時、不意にAさんが煙草を口にくわえた。あっと声を上げると、彼女はいたずらっぽく笑った。その顔に何とも言えない感情が沸き上がるのを必死で抑えこむ。
「Aさん、体に悪い─」
慌てて煙草を奪おうとした俺の手を、Aさんの手がするりと包み込む。綺麗な顔がずいと近づいた。
「…え?」
ふわりと煙がに吹きかけられた。いつもの匂いに交じって、かすかに甘い香りが混ざる。
「苦い」
ちょっと顔をしかめる彼女に対し、俺は言葉も出なかった。
(意味、わかってて…やって…)
真っ赤になってはくはくと口を動かす俺など気にもせず、Aさんは煙草の火を消してしまった。
「おやすみなさい」
そう言って、Aさんは胸ポケットにある灰皿を取り出して煙草を放り込んだ。
「吸ってもいいけど、程々にね」
灰皿を俺の胸ポケットに入れ直すと、Aさんは笑った。その微笑みにまた体の奥が熱くなる。
「Aさんも、からかうのは程々にしてくれ…」
彼女を抱き寄せ、口元を耳に寄せた。
「いつまで『紳士』でいられるか、俺にも分からないから…」
347人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りと(プロフ) - こゆさん» お返事が遅くなってしまい、すみません<(_ _)>リクエスト承りました!ここではお話がいっぱいになってしまいましたので、続編の方で書かせて頂きますねヽ(*^^*)ノ (2021年8月11日 19時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
こゆ - 夢主がロシナンテと女性が仲良さげに話していて嫉妬する話を見て見たいです! (2021年8月9日 23時) (レス) id: 0874e209a6 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - マリコさん» マリコさん、リクエストありがとうございます!しかし、残念ながらこのリクエストは受けられません…すみません<(_ _)>プリキュアに関する知識がないことや、私自身の地雷に抵触する部分がありますので…|ω・`)他の短編集でのリクエストをオススメします(´∀`*) (2021年7月31日 1時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - 嫁子ちゃん。さん» コメントありがとうございます!そう言っていただけると、本当に励みになります(^^♪修正・加筆後に、また新たなお話を追加していく予定ですので、待っていていただければ嬉しいです(*´∀`) (2021年7月31日 1時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
りと(プロフ) - ☆kon☆さん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(>人<) (2021年7月31日 1時) (レス) id: 4416da2808 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りと | 作成日時:2018年1月16日 22時