157.(side T.O) ページ9
飲んでた焼酎吹き出しそうになって、慌てておしぼりに手を伸ばす。
「飲んでるやん!」
「タクシー?」
「いくらかかんねん!」
「知らんけど」
驚く俺にヤスは相変わらず首を傾げて、無駄に可愛い顔してる。
もしかして酔うてる?
酔うてもうてんの?
「ちょ、ヤスそんな飲んだっけ?」
「まぁそこそこ飲んだけど、酔うてはないで?」
「酔うてへんのにようそんなぶっ飛んだ発想できるな」
「でも大倉、行かんとは言わんやん」
「……それは別に、今から行けると思ってないだけやって」
「ちゃうやん。ほんまは行きたいんやろ?」
サングラスの向こう側、優しいヤスの目が俺に微笑む。
「なぁ、大倉?人生何があるかなんてわからんのやで?今出来る事は今せんとアカンよ。素直になり」
ヤスに言われてもうたら、説得力があり過ぎて。
今日は随分と情けないとこ見せてもうたし、もうええか。
微笑むヤスに甘えて、ほんまに全部吐き出してもええよな。
「……そら、行きたいやろ」
そんなん行きたいに決まってるやん。
会いたいに決まってんねん。
一度口にしてもうたら、もう止まらへん。
「……Aに会いたいねんて」
ほんまは最初から納得なんて出来てへん。
それやのに、どうしてもっと強く行くなって言わんかったんやろ。
カッコ悪くても、いややって泣いてでも、どうして止めなかったんやろ。
ほんまに今更過ぎる。わかってる。
でも…まだ間に合うかな。
会いに行ってもええんかな。
「…追い返されたらどないしよ」
「そしたらまた行けばええやん。ネックレスやなくて、大倉自身で縛ったったらええねん」
「…急にブラック出してくんのやめて」
「そう?純粋に応援してるだけやで?」
近いようで遠いこの距離を乗り越えて。
Aの為やと言い聞かせて、貫き通せなかった気持ちを今度は見失わんように。
時間が掛かってもええわ。
俺はAに側にいて欲しいから。
ヤスの言うように、もう離れへんように。俺自身でAを縛り付けたんねん。
333人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時