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でもそう簡単に割り切れない私もいる。
いつきさんの時から一途だって言えば聞こえは良いけど、自分でも粘着質な性格だなって思うよ。
それでも刻みつけた忠義くんはそう簡単に消えてくれないし、消したくない。
「また辛い思いするの目に見えてる。もっと普通のヤツでいいじゃん」
「…ゆきちゃんの先輩とか?」
心配してくれるているのに、冗談で返す私は最低だ。
思わず目を逸らした。
「そう。他にも目を向けろって」
「…わかったってば」
目を伏せて、なんとかこの場をやり過ごそうと笑ってみせる。
だって、他に目を向けられるならとっくにそうしてるから。
そんな私に呆れたようにゆきちゃんはまた溜息をついた。
そして予想外の事を口にする。
「こないだ海で…アイツと一緒のとこ見かけた」
驚いて、逸らしていた視線を戻した。
こないだの海って…忠義くんと……。
言葉を失った私は、ただただ相変わらず渋い顔のゆきちゃんを見返す事しか出来ない。
「昔っから目だけは良いからさぁ…本当に見たくもないのに…いい年した大人が外で何やってんだよ」
あの夜は近くに誰もいなかったし、久しぶりに感じる忠義くんの熱に完全に浮かされていた。
帰って来て冷静になれば軽率だったと反省もしたけど。
暗がりの中、まさか誰かに…ましてゆきちゃんに気付かれるなんて思わなかった。
「あんなの…なんかあったらまた傷付くのはAだろ」
ゆきちゃんが凝りないと怒った事も、今日ここに1人で来た理由も、ようやくわかった。
“なんかあったら”
その言葉とゆきちゃんの怒った顔が重くのしかかる。
でも…。
「…忠義くんが傷付いてないわけじゃないよ」
アイドルとして、プロデューサーとして。
1人の人間として、男として。
時に謂れのない言葉たちに忠義くんが悩んで傷付いている事は、ゆきちゃんは知らない。
「…庇うなよ」
「別に庇ってないけど…」
「俺はアイツの事なんかどうでもいいんだって」
見た事ない怒った目で、私を真っ直ぐに見下ろして、ゆきちゃんが私の心を抉る。
「なんかあったら、次は何処に逃げんの?」
畳み掛けるようなその台詞に、私は本当に返す言葉を失った。
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作者名:咲菜 | 作成日時:2022年8月16日 20時