169.(side T.O) ページ21
案の定ご飯食べた後、もう一度誘うとちょっとだけだよとか言いながら、Aはいそいそと片付けを始めた。
2人で店を出る。
散歩言うても、いつも店に来て帰るだけやから近所の事はようわからんし、ただなんとなく並んで歩く。
照らすのは小さな街灯と、三日月だけ。
田舎の夜は暗くてええな。
全部隠してくれるやん。
「なぁ、」
「ん？」
「手繋いでもええ？」
「…だめ」
「ほんまケチやな。誰もおらんやん」
気付けば海まで来ていて、人もちらほらおったけど、暗いし気にせんといつかAと座ったベンチに腰掛けた。
「…A」
「…うん？」
「ちょっと話したい事あるんやけど」
「……やだ」
「なんでやねん。せめてどんな話か聞け」
いちいち断ってくるAにさすがにちょっとイラッとして、仕返しにだめやと言われたその手を握る。
見下ろしたAの顔が少し困り出したけど、拒否される事はなかった。
「ええとこやな」
「何にもないけどね」
「でもええとこやん」
「…虫いっぱいいるよ？」
「なぁ。それはほんま嫌」
静かな波の音、何処からか微かに聞こえてくる誰かの笑い声。
穏やかな夜。
繋いだ手に力が入る。
「今日の忠義くん、変だよ」
「今日だけちゃうわ」
言うてもスタジアムもドームもいっぱいにするアイドルやで？
言うたやん。放っといても嫌って言うほど女の子は寄ってくんねん。
そんなん全部無視して、別れた彼女のために車走らせて。
触れもせんのにただ会いに来とるとか。
誰が見ても、もうずっとおかしいやろ。
「誰のせいやと思ってんねん」
「…さぁ？」
すっとぼけて、首を傾げたA。
人の気も知らんと腹が立つ。
もっと困らせたくなって、グッと顔を近付けた。
今にも口が触れそうな、久しぶりの距離。
さすがに怒るかと思ったのに、珍しく抵抗せぇへん。
周りが暗いせいか、久しぶりのデートのおかげかAのガードもいつもより緩くなってる気がする。
それが俺を少し大胆にさせた。
「…ほんまにキスすんで」
「…ダメ」
「…ダメって顔してへん」
俺もすっとぼけて、ほんの数センチ近付けた距離。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年8月16日 20時
