第13話 : 優しい先輩 ページ15
数学の授業で居眠りしてしまったせいで、二限の教室にたどり着くまでに時間がかかった。
次の時間も移動教室で、その上、三年生の階だというのに。
同じクラスの人がどこにいるのかも分からず、私は三年生がまだ多く残っている四階の廊下を彷徨う。
四階の廊下は私たちの階より狭く、人でごった返している。
先輩たちを掻き分けてなんとか教室を探そうとしていると、誰かとぶつかってしまった。
「あ、すみません!」
「おお、ごめんなさい」
「おい将暉、一年生怖がらせるなよ」
将暉と呼ばれる、私がぶつかってしまった先輩を中心に、男子の先輩が二人。
モデル並みに顔が小さく、スタイルも良い。
ひと目見ただけでも輝かしい青春の日々を送っていることが想像できるくらい、眩しい。
「怪我してない?」
将暉先輩が私に優しく声をかける。
関西弁の訛りが入っている。
「あ、全然大丈夫です。先輩こそ大丈夫ですか?」
「こっちは大丈夫」
「いやなんでお前が答えんねん」
将暉先輩の隣に立っていた、茶髪で彫刻のような顔立ちの良い先輩が答え、将暉先輩がそれにツッコむ。
私が笑っているのを見ると、先輩たちは安心したような表情を見せた。
一年生の私を気遣っての行動だったようだ。
「次の授業、この階なの?」
先程の先輩とは反対側に立つ、黒髪で子犬のような瞳の先輩が言う。
「あ、そうなんです。視聴覚室の場所が分からなくて…」
「視聴覚室ならこの廊下の突き当たりだよ」
茶髪の先輩が廊下の向こう側を指して言う。
「ありがとうございます」
「君、名前は?」
「立川Aです」
将暉先輩に言われて答える。
「花峰学園へようこそ」
「なにカッコつけてんだよ」
両手を広げて言う将暉先輩に、茶髪の先輩が勢いよくツッコミを入れる。
そして三人で楽しそうに笑う。
素敵な先輩たちだ。
「じゃあ、授業頑張って」
「はい、本当にありがとうございました」
私は笑顔で頭を下げる。
去り際に、将暉先輩の両隣の先輩も、ばいばい、と私に小さく手を振ってくれた。
先程まで怖かった三年生の廊下が、今は少しだけ明るく見える。
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作者名:佐々木さん | 作成日時:2020年12月7日 2時