第12話 : 居眠りデビュー ページ14
「おーい、立川さん」
耳元で誰かに名前を呼ばれ、私は目を覚ます。
ぼやける視界に映ったのは、倫也先生だった。
私は眠ってしまっていたことに気づいて焦る。
授業中に眠ったことなど、今まで一度もなかったと言うのに。
授業はもう終わってしまったようで、教室には私と倫也先生以外の誰もいなかった。
「ご、ごめんなさい。私…」
「別に謝らなくたっていいよ。僕の授業ではね、ほとんどの人が眠っちゃうんだ」
倫也先生はなぜか楽しそうに笑う。
それでも私は、眠ってしまった自分に対して微かに怒りを覚えた上に、どこか悪いところでもあるのではないかと疑ってしまう。
「もしかして、授業で眠ったの初めて？」
私は頷く。
「わーい、じゃあ今日が居眠りデビュー日だ」
「喜べることじゃないです」
私は喜んでいる倫也先生を尻目に言う。
「君みたいな優等生なら、この学校で少し寝ただけで成績が悪くなることなんてありえないよ」
そんな私に、倫也先生は何かを確信しているような目つきで言った。
「それに、今日は今後の授業の内容を説明しただけで、教科書は進めてないしね」
「そうなんですか？」
私は安心して、思わずため息を漏らす。
「ふふ、きっと疲れてたんだよ。お疲れ様」
倫也先生は優しく笑う。
その笑顔を見ていると、なぜか心が落ち着いた。
「ほら、次の授業始まっちゃうよ」
時計を見ると、二限が始業する五分前だった。
私は急いで立ち上がり、道具を持って教室を出ようとする。
「立川さん」
扉の前で倫也先生に呼び止められて、足を止める。
「あんまり無理しすぎないでね」
私は一瞬戸惑いながらも頷いて、倫也先生に頭を下げる。
「ありがとうございます」
「うん、頑張れ」
倫也先生が、昨日から疲れ切っている私に気付いてくれたことは少しだけ嬉しかった。
口元がニヤけないように気をつけながら、私は教室を後にした。
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作者名：佐々木さん | 作成日時：2020年12月7日 2時
