雄英脱出【死柄木弔】 (ページ43)

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湯煙事件ページ43

「い、生き返ったァ！！」

林間合宿初日。鬼畜すぎる試練を終えて、激うま飯をたらふく食って風呂の時間。彩人は「もういい」とか言っておかわりもせず食堂を離れた。風呂に行ってしまったようだ。

俺も彩人の後を追って風呂場へ。ここは露天風呂と聞いていて楽しみだ。ヒノキの扉を開けると温泉の懐かしい香り。湯気の先に人影が見える。

「彩人！を置いていくなん…て」

　「あ…」

彩人はシャワーを浴び終わったところだったらしい。濡れた黒髪がキラキラしていた。我ながら気色悪いけど授業後の更衣室で裸なんて嫌でも見る。彩人の華奢な背中も嫌でも見てきた。でもいつもと違った。

「お、お前その痣…」

　「…こないだの訓練の時の」

彩人の背中には痛々しい痣が無数にあった。明らかに人によって与えられたものだと分かる。
彩人は目を合わせなかった。表情も挙動もそのままだったけど嘘をついていると明らかに分かる顔だった。

「バカ。そん時は俺とペアだったぞ。嘘ついてるだろ」

　「…はは。バレたか」

彩人はいつもの俺に見せる笑顔を俺に向けた。くるりと俺に向き直って髪をかき上げた。

　「これやばいだろ？信じてもらえっか分かんねえけど…」

いつものふざけた感じに戻った。少しだけ安心したし、その様子が逆に不安にも思えた。

　「一昨日、駅前で喧嘩を仲裁しようとしたら返り討ち。他の奴らに言うなよ。馬鹿にされる」

嘘ついてるようには見えない。でもそう見せるのが上手いのが彩人。彩人が本当のこと喋るとは思えない。だって彩人はそういうやつだから。

でも俺は友達だから。本当のこと喋ってくれるまで待とうと思う。

「ぶはっ、なんだよそれ！！らしくないことすんなよ心配するだろうがよ！！」

　「いだっ」

_____
風呂場は賑やかになった。各々が温泉を楽しんでた。その中で一人、勇ましく立つ勇者峰田。

「ぶっちゃけ飯とかはどうでも良いんすよ。」

女湯と男湯を隔てる壁を前に騒ぎ始めた。飯田が注意しようとも止まる気配はない。

校訓を散々汚しゴキブリのように壁を登ったところ番人の少年に阻止されたようだ。切島は俺に耳打ちをする。挙動不審でよからぬことを考えているのがバレバレだ。

「お、おい彩人…お前の個性…」

　「俺はそんなじゃない。馬鹿なこと考えてんじゃねえよ」

「っだだだだだ、だよなそうだよなッ！！」

地獄耳の爆豪に罵倒されて己の低脳さを恥じた切島は静かだった。
一方、轟は不思議そうな顔をしていた。