雄英脱出【死柄木弔】 (ページ18)

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奪え！騙せ！落とせ！ページ18

最初の競技は障害物競走。俺の足はそれほど速くない。飛べるわけじゃないし障害を壊す力もない。ただ見るだけだ。

【スタートォォォ！！！！】

大衆が走り出す。狭い狭いスタートをぎちぎちになって。俺はまだ動かない。出来るだけ大勢の顔を確認する。存在を知らないとまず個性が使えないから。

みんな走り去った。俺だけが一人スタートにいる。実況でも俺のことを言っている。

　「俺、見られてる」

自然と笑顔が溢れて、俺は前を行くそいつらの視界をできる限り奪った。視界を覗くのよりは奪う方が楽だ。この大人数を一度にやるのは初めてだ。

ブツッと途切れた見ていた景色。それに気づいてみんな立ち止まる。

「え…！？なんだこれ！！」

「誰かの個性！？」

「これじゃ走れねえ！！」

オマエらは何も見えない。そして俺はヒーローになるんだ。大きく息を吸って、いつもの他人に接するときの態度で。優しく作りあげた声色で。さあ。

　「みなさんっ大丈夫ですか！！！！！！」

みんな俺の声のする方へ耳を傾ける。俺という頼れるモノに。上っ面だけは完璧なヒーローになれるよう努力してきた。みんな俺を信用してる。

　「暗闇のエリアみたいです！僕は夜目がききます！！」

嘘をつく。

　「僕についてきてください！みんなでゴールしましょう！」

また嘘をつく。

「信用して大丈夫なのか？」

「でも、悪いやつじゃなさそうだよ」

「もしかしてヒーロー科の人？」

視界を奪われたオマエたちは俺についてくるしかない。先頭の奴らが破壊したロボットを乗り越えれば巨大な崖のエリアがあることを俺は知ってる。クラスメイトの誰かの視界から覗けた。そこで突き落としてやろう。

前の方で走ってる奴ら。ロボットに苦戦してる。トップを走る奴らもかろうじて見える。奪え。奪え！

　「みなさんこっちです！！！」

どんどん増える視界を奪われたモノたち。俺のキャパも近い。崖エリアが近づいてきた。涙も溢れ出そうだ。細い綱に足をかけて走り抜ける。

　「ついてきてください！！」

「おう！ってえぇ！！？」

「落ちてる！？おちてる！」

「ぎゃあ」

わっと足を踏み出し落ちていく連中を見下ろす。視界を返してやろう。顔も知らない見えない俺によくついてきてくれた。信じてくれてありがとう。また笑顔が溢れる。脱落間近に見た俺の笑顔はどう映ったかな。

「てめぇ！騙したな！！」

　「はは、ばいばい」

なんて悔しそうな顔なんだ。崖の下で俺を恨んでね。