急性忘愛症 /nkm ◎ ページ4
※死ネタ.忘愛症候群パロ含みます
.
「こんにちは、Aさん」
「こん、にちは。……なかむ？さん」
紅茶をぶちまけたような色合いの明るい茶髪に、快晴を貼り付けたような鮮やかな空色の瞳。
自称、彼氏のNakamuさんだ。
「今日はいい天気ですね。」
「……飽きずによくここに来ますね。面白いものなんてないのに」
「Aさんに会いに来たんですよ」
「ご冗談を」
にこやかに笑ってキザな台詞を吐く空の彼。けれども様になってしまうのは彼の容姿のおかげか。
よくもまぁこんな人を前の私は捕まえられたものだ。
「前、こんな晴れた日にピクニックに行ったことがあるんです。ほら、噴水のある公園です」
「……覚えて、ないんです。」
自宅の近くにある芝生の生えた公園。広い広場があってちびっこ達が鬼ごっこをしてよく遊んでいた。
私はそれを眺めるのが好きで、パンジーの咲き乱れる花壇の前のベンチにいつも座って日向ぼっこをしていた。
「あはは、わかってますよ。意地悪してすみません」
困ったように、遠い昔の記憶を懐かしむようなその表情に酷く見覚えがあってきぃん、と頭が痛む。
押し込まれてしまった筈の記憶がこちらに顔を覗かせる。
「ねぇ、Aさん。」
彼がひとつ呟く。煙草の煙のように気紛れに宙を漂い、拾われることなく消え失せていく。
目を合わせられなかった。何か異常なものを感じてしまったのだ。
「俺、貴方を愛してます」
「……記憶のない私なんて、愛せるはずがない」
想起する思い出もない私は、器がAというだけのマリオネットに過ぎない。
ゼンマイ仕掛けの私のネジは、既に錆び付いてしまっているのだ。
「なら、記憶を思い出せたら？」
「……何を、言っているんですか」
「ふふ、言ってみただけですよ。」
.
彼が笑う。強い既視感。晴れゆく快晴。
まるで彼が溶けだしたように空が笑う。
「……夢、か。」
彼が居なくなって、一周忌。
＿＿＿
ボツですが念の為供養。成仏してクレメンス。
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作者名：りつ | 作成日時：2022年5月16日 18時
