コミュ障の鬼殺隊士は誤解と冷や汗を撒き散らしながら今日も往く。 (ページ42)

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勘違い36個ページ42

『見る目ないんですねその人達。私こう見えて図書館の館長なんですよ？古今東西、日本の書もとつくにの書も読んできましたが貴方の物語は面白かった。』

まぁ書き出ししかまだ読んでませんけどね。と付け足す。

響凱は俯いて「認めてくれるのか。俺の文章を。」と問いかける。私は『ええ。でも人を殺すのはダメですよ』と答えた。

「…お前とは、生きている間に出会いたかったものだ。」

『えぇ。本当に。』

しかしそれでも稀血を食べるという方針は変えない様子でひたすらに寂しそうな顔を浮かべる。

私はあまりこの鬼が怖くない。

全く怖くないと言ったら嘘になるが、今のところ人間のような理性的な言動を見せているし何より書き手と読み手の関係というか。

彼も形は違えど物語を仕事にする者。私も語の呼吸は勿論、図書館の経営もしている。

読む側と読まれる側。

慣れきったその距離感に居続ける響凱と私は、お互いに若干戦意を無くしかけている。

最も、読者と作者というのは大抵の場合〘干渉しないもの〙なのだ。顔を合わせても作品の話しかせず、他の話なんてしたりしない。

私と響凱は今さっき鬼と鬼殺隊(響凱にとっては鬼と食料)の関係から読者と作者の関係に変わってしまった。

今私は響凱の首を飛ばそうと思えば即座に飛ばせる位置に居る。響凱も私を食べようとすれば食べれる位置にいる。だけれどお互いそれをしないのは何故か。

「…お前は、生きたいか。ここから逃げたいか。」

響凱はそう問うてくる。私はわずかに首を縦に振る。

『えぇまぁ。死にたい訳ではありませんし、まだ読み切れてない本があるので。』

そう答えると響凱は動きを止めてじっと考えた。彼の中ではきっと凄まじい葛藤が起きているのだろう。

でもどちらにせよ私はまた戻ってこなくてはいけない。稀血の男の子…兄妹の兄を連れ帰らなくてはいけないのだから。

響凱は苦しそうにしていたがおもむろに立ち上がる。そうしてさっき入ってきた襖に手をかけ、こう言った。

「行け。さっさと外へ出て好きなだけ本を読むが良い。読み手が居なくては書き手もつまらんだろうよ。」

響凱が襖を開けたその瞬間。

襖の向こうには恐ろしい気配の鬼が3体、にやけた笑みを浮かべて待ち構えていた。